湊っ子ちゃん

手ぶくろの片方

歩道の案内柱に、何かが結びつけられていました。
よく見ると、それは手ぶくろの片方でした。

ここは平成通り。中央区役所にほど近く、オフィスビルや古くからの商店が肩を並べている、生活の匂いを残しながらも、人通りの多い賑やかな通りです。手ぶくろが片方落ちていても、気づかずに通り過ぎてしまいそう。

きっと、誰かが拾ってくれたのでしょう。だけど、不思議なのは、その手ぶくろがビニール袋に入っていることです。これはどうしたことでしょうか。

手ぶくろを拾った人は、考えたはずです。
交番に届けようか・・・いや。
届けても、数知れない落とし物の渦の中にのまれてしまうだろう。それよりも、この場所から動かさないほうがいい。そうすれば、落とした人が、またこの道を歩いたときに、気づくかもしれない。
こうして、一番目立ちそうなところに、手ぶくろを結ぶことにしたのかもしれません。

今度は、どんなふうに結ぼうか考えたはずです。
紐でくくりつけようか?・・・でも、それでは、ちょっと乱暴かな?そうだ、透明のビニール袋に入れて結ぼう。そうすれば、手ぶくろを傷つけずに済むし、雨が降っても大丈夫です。気長に、持ち主を待つことができます。

そんなふうに、拾った手ぶくろをみつめながら、どうしたらこの手ぶくろを、持ち主のもとに返してあげられるかと、頭を悩ませている”誰か”の背中が見えました。

手ぶくろを拾ったのは、どんな人なのでしょう。
ビニール袋や紐を用意できる人ですから、近くに住んでいるか、オフィスがあるか、近隣の人だと想像します。
もしかしたら、拾ったのは一人ではないのかもしれません。
初めに拾った人が、歩道の脇に置いたものを、別の誰かが、もっと目立つ場所へと移動させたのかもしれない・・・。そう考えると、たったひとつの落とし物に、幾人もの思いが重なっている気がしてきます。

前日は15度を記録したとはいえ、夜のうちに再び空気が入れ替わり、この日は冬の冷たさでした。春が、もうすぐそこに見えているというのに、冬は名残惜しいのか、なかなか帰ろうとしません。手ぶくろをしないと心細いのは、毎年同じです。

手ぶくろを拾ったその人は、この街に愛着をもっている人なのだろうなぁ、そんなふうに思いました。
そして、街と同じぶんだけ、この道にも。

誰かの落とし物にも、優しくなれる人がいる。
この街って素敵だなぁ・・・。

信号を待っている少しのあいだでしたが、案内柱に結ばれた、その手ぶくろをみつめ、心の温まる思いがしました。

 

 手ぶくろの片方

中央区観光協会特派員 湊っ子ちゃん

第36号 平成31年3月16日