国の有形文化財、数寄屋造りの高級料亭でカフェタイム。
よし梅 芳町亭で午後のひと時を(期間時間限定)。
芳町(今の人形町一丁目周辺)は夕方になると御酌さんのぽっくり(高下駄)や三味線の音が響く花街でした。その芳町に住んでいた「うめ」が芸者の置屋だった数寄屋造りの建物で「よし梅」を始めたのが昭和二年。界隈にはまだ多くの芸者衆がいて江戸の香りが漂っていました。
今のよし梅にはランチを提供する「人形町本店」と夕方にのれんを上げる鍋・懐石コースの「芳町亭」があります。ここで紹介する芳町亭は国の登録有形文化財に指定されていて、敷居をまたぐと時空を超えたかのような佇まい。なんと、入り口横の腰座で文豪、谷崎潤一郎が煙をくゆらせているではありませんか(彼の生家はすぐ近く、しゃも鍋・親子丼の玉ひでの並びにありました)。
数寄屋造りは茶人の精神性を表すために、風流でありながら繊細、質素かつ洗練さを大切にした造り。多様な自然素材を使って自然との調和を図る建築様式です。
若女将が屋敷内を案内してくださいました。
天井に使われている屋久杉。木目が華やかなだけでなく、防虫効果があり長い年月に耐える素材だそうです。そして右の写真が樹齢五百年、秋田杉一枚物の大きな戸。内部から脂がしみ出て、太陽が当たると鏡のように光り輝くそうな。
芳町亭は床の間を大切にします。
客室の床の間にはそれぞれ意匠が凝らされています。例えば床柱。コブシの木、面皮柱(皮をはがない自然のままの木)、縦皺杉の柱(時間をかけてゆっくり育てることで表面にしわがよる)を格によって使い分けています。生け花は生け花教室を主宰する若女将によるもの。山下清画伯の絵がさりげなく飾られています(写真右)。
磨き上げられた松の廊下と手作りのガラス。
左の廊下はワックスがけしたような松の廊下。でも、手入れはから拭きのみで表面の艶は松からしみ出た脂だそうです。そして縁側を走るレトロ感覚の窓ガラスは補充が難しい手作りの波板。「酔ってぶつかって、割ってしまう人いませんか」と訊ねると、そういう人はいないとの事でした。以前、私、酔っぱらってスナックでガラスを蹴ってしまい・・・私、芳町亭ではお酒飲みません。
広がりを感じさせる坪庭と落ち着いた茶室風の部屋。
一階の奥で坪庭が客人を迎えます。細長い坪庭に灯篭、石、植木が空間の広がりを感じさせる配置になっていて、実際より大きく見えます。茶室のような小さな部屋で庭を眺めながら抹茶をいただきました。550円。ごっごっ五百五拾円!コーヒーも同値段だと思います。どの部屋も素晴らしく掃除が行き届いていて、指をガラス戸の桟に這わせても埃が付きません(指を這わすなんて失礼ですよね)。清潔さは料理のうちと私の体が喜んでいました。
芳町亭でのカフェタイムは今の時期だけ。
芳町亭での夕食、お酒もたしなむとすれば一人二万円以上はするでしょう。お客様は年配の方やビジネス関係の方が多く、コロナ禍で外出や会食をひかえていらっしゃる方が多いようです。年齢を超えて芳町亭を見ていただきたいとの思いから、今回カフェタイムを設けたそうです。2時から4時まで。土日祝日休み。期間は緊急事態宣言が終了するまでの予定(要確認)。ゆったりした間隔の料亭の席で、国の文化財をお茶代だけで鑑賞できる機会はめったにありません。
日本橋人形町1-5-2 03-5623-4422 日比谷線人形町駅徒歩2分。半蔵門線水天宮前徒歩6分。大観音寺脇の芸者新道と呼ばれる小さな通りをまっすぐ約2分(大観音寺では高さ170㎝の鉄製仏頭が毎月11日と17日に開帳されますよ)。