日本橋地区は三井本館(建設年昭和4年、重文)、三越本店(昭和10年、都選定歴史的建造物)、野村證券ビル(昭和5年)、日本橋高島屋(昭和8年)など一部建替えられてはいるものの、昭和初期の名建築が目白押し。
今回ご紹介する「三菱倉庫江戸橋倉庫ビル、以下江戸橋倉庫ビル」もその一つで「都市型倉庫の初期のものであり我が国における表現派風建築の代表的作品」として2007年に都選定歴史的建造物に選定されていますが、その高層オフィスビルへの建替え開始までいよいよ一ヶ月余りとなりました。
江戸橋倉庫ビルは昭和5年(1930年)竣成。我が国初の本格的都市型倉庫として、創業期からの歴史的場所である当地に建設されたものとのこと。昭和通り側から見るとやはり目に付くのは船のブリッジに見える塔屋です。これは社旗を掲げるための旗台として作られたものだそうです。日本橋郵便局側から正面入り口を見ると柔らかいカーブが船体の舳先のように見えます。壁面のデザインもバリエーション豊かでバルコニーや船窓を思わせる半円窓もあり、さらに重厚な印象を与える1階部分の石のデザインなど見所が多くて飽きません。因みに設計は同社社員とのことです。
またこの倉庫は一部に当時アメリカで盛んだった「家具倉庫」に倣い、行李やトランク単位の家具・家財を預かる本邦初の「トランクルーム」を併設していました。これはヒントはアメリカから得たものの関東大震災から間もない日本の実情に合わせ「家財の安全性」のニーズに応えようとしたものでこの「トランクルームサービス」は当時のアメリカでも先端的な業務として理解されアメリカの雑誌にも紹介されているほどだそうです。現在のように数社が参入し誰もが気軽にトランクルームを利用する時代がくることを80年以上前に「サキヨミ」し「トランクルーム」のネーミングとともに新事業開始を決断した先見性に脱帽!です.
新しいビルの概要はニュースリリースされたものによれば「低層部を歴史的建造物として活かし、基壇部の自然石、曲面壁を含む既存外壁の概ね7割及び船橋状塔屋を保存し上部に高層棟を築造。地上18階、地下1階。1階エントランスホールは公開スペースとし、日本橋川の河畔には親水空間を設置し、同様に公開スペースとする」とのことで完成予定の2014年が楽しみですが、今の形での建物が見られるのはあと1ヶ月余り。日本橋地区は他にも見逃せない名建築の宝庫。いずれも指呼の間にありますので、一日「日本橋建築散歩」と洒落てみては如何でしょう。
三菱倉庫江戸橋倉庫ビル
中央区日本橋1-19-1 最寄り駅:銀座線日本橋・三越前
新建築についてのHP:http://www.mitsubishi-logistics.co.jp/news/2010/100129.html/