旧暦十月の最初の亥の日を祝う「玄猪」、今年は10月9日今の暦で11月4日が亥の日に当たります。
「十月亥の日に餅を食べると病気にならない」という中国の俗信が平安時代に貴族の間に広まりました。丁度稲刈りの時期でもあったため、次第に収穫祭の意味合いが強くなり農村部にも広まり西日本各地での「亥の子祭り」「亥の子搗き」、東日本での「十日夜」(とおかんや)となったと言われています。源氏物語」(葵の帖)に「その夜さり、いのこもちまいらせたり」とあるのが初出のようです。
この宮中行事の流れを汲むものとして江戸時代には五節句や嘉祥などとならぶ登城日の一つとして「玄猪御祝儀」がありました。斉藤月岑の「東都歳事記」には「玄猪御祝儀、諸侯申中刻(午後4時ごろ)御登城。大手門ならびに桜田御門にて御篝を焚かせらるる。貴賎、餅を製し時食とす。(武家にては公の例にならひて白赤の餅を家臣にたまはるなり」との記述が見られます。篝火の焚かれる中を衣服を改めた大名や旗本たちが総登城して亥の子餅をいただくというのも想像するとなんだか可笑しいですね。
また、イノシシは「火を防ぐ動物」と考えられ、この日に火を入れると火災にあわないとされていたことからこの日から囲炉裏や掘りごたつを開きました。「茶の湯」でも風炉から炉に切り替える炉開きをし、流派によって異なりますがその時のお菓子は「亥の子餅」を用います。
「とらや」さんでは11月1日から1ヶ月季節限定で亥の子餅が店頭に並びます。
「とらや」さんは室町後期の天正14年京都での創業で当初より御所御用を勤めていた説明の要のない老舗ですが、東京へは1869年東京遷都に伴い進出。1879年に銀座に開設。お邪魔した日本橋店は1946年喫茶「みかく」として開店。1948年から銀座につぐ直営の「日本橋店」として営業されています。「亥の子餅」は黄粉、胡麻、干し柿を混ぜた生地であんを包みイノシシの子どもに見立てた素朴な姿で鎌倉時代の文献にある製法を参考に平成11年から作っていらっしゃるそうです。
炉開きに使用する菊の葉、塩、切り火です。年に一回だけのちょっと厳粛な気分になる「炉開き」セレモニー。
これから6ヶ月間お世話になる「炉」に感謝しながら、とらやさんの亥の子餅を皆でいただきました。
とらや日本橋店:中央区日本橋1-2-6TEL3271-8856
平日:09:00~19:00、(土祝は18時まで)
亥の子餅は1個420円、生菓子は予約をおすすめします。