隅田川と友好河川であるパリのセーヌ川との比較を通じて、中央区の魅力を再発見するシリーズの<その6>です。
今回は〝夜景〟と〝歌〟に親しみましょう。
パリといえば〝シャンソン〟・・・おしゃれでありところどころ哀愁を帯びた町景色にはよく似合います。もともとは、一般庶民の気持ちを吟遊詩人が歌に乗せて伝え歩いたというものだそうです。言ってみれば、日本の〝演歌〟や〝説教節〟〝新内流し〟などにも似た発展を示しているわけです。日本人がどこか懐かしい気持ちで心を惹かれるのもそんな背景があるからでしょうか。
1951年の映画『巴里の空の下セーヌ川は流れる』の中で歌われたシャンソンは、その後スタンダード化しました。ピアフやイヴ・モンタンも歌いましたし、越路吹雪さんも歌いました。
「♪ パリの空の下 歌は流れる ラララ 若者の心に芽生えた歌・・・・」切々と連なる歌詞にはサン・ルイ島やノートルダムなどの風景が織り込まれ、聴いているだけで旅情を掻き立てられます。
きっと今夜もパリのあちらこちらでシャンソンが流れていることでしょうか。秋の夜景には一層似あうように思えます。
一方、隅田川も夕暮れから夜にかけての風景の変化は味わい深い姿を見せてくれます。橋の上にたたずんで、夕波を眺めるのも心豊かなひとときです。 <写真上:佃大橋から佃公園を望む>
そしてまた歌が似合います。滝廉太郎の『花』に出てくる「春のうららの隅田川・・・」という明るい景色も素晴らしいですが、日が落ちて町の灯がともる頃の小粋な世界もまた捨てがたいものがあります。
有名な『明治一代女』では「♪ 浮いた浮いたと浜町河岸に 浮かれ柳の恥ずかしさ・・・・」と当時の大胆な恋愛物語をつづっています。芳町が花街として賑わった頃、様々なドラマもあったことでしょう。
また、小唄『河水』の歌詞には「♪ 短夜のいつか白みてほのぼのと咲く朝顔も水浅黄 ・・・・」と夏の夜が明けてゆく隅田川の流れを読み込んだくだりがあります。
永代橋、清洲橋、新大橋と橋の名も次々に現れて、まるで川を行く船の揺られているように心情が深まります。
これから秋が深まり、しんみりと様々なことに思いを馳せるのにもいい季節です。隅田川の夜景に触れて、好きな歌を口ずさみながら橋を渡れば、忘れかけていたことを思い出すかもしれません。 <写真下:勝鬨橋から築地市場を望む>
どうぞこの季節を皆さんご堪能下さい。