いよいよ今年もあとわずか。一年を振り返る時季になりました。
新年を迎える忙しい準備もひと段落して、大晦日の暮れゆく空を眺めながら一息つく時間帯がぼくは好きです。
そして大晦日の楽しみは何と言っても〝年越し蕎麦〟です。
そもそも蕎麦が大好きで、しばらく口にしないと無性に恋しくなるのですが、大晦日の蕎麦はまた別の醍醐味を得ることができます。一年の反省をじんわりと胸に刻む気持ちと、新たな年が近づくのをわくわくしながら待つ高揚感とがない交ぜになって、独特の味わいになるのです。
それぞれの家庭で蕎麦を楽しむのももちろんいいのですが、お気に入りの店で確かな味に触れるのもいいものです。
中央区内には蕎麦の名店がたくさんありますが、今回は日本橋室町4丁目~日本橋本石町4丁目あたりの蕎麦屋さんを訪ねてみましょう。
「新日本橋駅」から「神田駅」に向かう途中の通りには 蕎麦屋さんやラーメン屋さんがたくさんあって、麺好きには楽しい地区です。老舗からチェーン店、ファンの多い個性的な店などが軒を並べています。
なかでも代表的なのは、『室町砂場』本店。砂場系のお店の中でも人気の高い老舗です。ぼくも日本橋散策の折などたまに訪れます。店内はけっこう広いのですが、いつも多くのお客で賑わっています。
ここで念のため江戸の蕎麦の歴史を確認してみましょう。もともと蕎麦は〝蕎麦掻き〟のようにして食べていたものらしいですが、戦国末期くらいから〝そば切り〟が普及し始めたとのことです。江戸の町には17世紀末くらいから〝蕎麦屋〟ができ始めたといいます。そしてあっという間に江戸の各町内に広がったようです。
ちなみに『砂場』という屋号は、もともと大坂城築城の折に建築用の砂が置かれていた場所の近くに旨い蕎麦屋がありいつしか『砂場』と呼ばれるようになったのが発端だと言われています。その後、『砂場』は江戸に進出し、その流れから『藪蕎麦』も生まれました。また、信州を発祥とする蕎麦屋の流れもあって、こちらは現在の『更科』系につながっているということです。
ついでに言うと、『砂場』発祥の地である大阪には現在『砂場』源流は残っておらず、『更科』という店がけっこう多いというのも不思議なものです。
江戸落語には蕎麦がよく登場します。亡くなった先代の桂文治師が生前におっしゃっていたことを想いだします。「江戸っ子てぇのは、蕎麦を食う、なんていわないもんです。蕎麦はするっとのどごしを楽しむものですから、〝たぐる〟というのが本当なんです。蕎麦屋で口をもぐもぐさせて食後に楊枝を使っているなんてのは野暮だっていわれたもんです」
まあ好きに食べればいいわけですが、ぼくとしては似合いもせぬのに粋ぶって、旨い〝年越し蕎麦〟をたぐってみるのを今から楽しみにしています。
皆様もどうぞそれぞれに大晦日の食のイベントをお楽しみ下さい。そしてどうぞ良いお年をお迎え下さい。来年もどうぞよろしくお願いします。