桜の名所、花見客で賑わう上野・清水観音堂(きよみずかんのんどう)の境内に一本のしだれ桜が咲き誇る。石燈籠の脇に石碑と立派な句碑が建っている(写真上左)。句を詠んだのは、元禄のころ、日本橋小網町の「お秋」という13歳の少女であった。その俳号からこの桜を「秋色桜(しゅうしきざくら)」と呼んでいる。
句碑に刻まれているのは次の句で、台東区説明板によって紹介したい。
井戸ばたの 桜あぶなし 酒の酔
お秋は9歳で宝井其角の門下となり、俳号は菊后亭秋色と号した。当時13歳であったと伝えられる。以来、この桜は「秋色桜」と呼ばれている。
其角没後、その点印〔(編注)てんいん=俳諧の点者が句の評点のための押す、各自独特の印形。『広辞苑』〕を預かるほどの才媛であった。享保10年(1725)没と伝えられる。
碑は昭和15年(1940)10月、聴鶯荘主人が建てた。現在の桜は、昭和53年(1978)に植え接いだもので、およそ9代目にあたると想像される。
この句碑の脇には井戸端(写真上右)が作られて、秋色桜には「ヤエベニシダレ(八重紅垂)」の標札が付いている。
其角は江戸の人。松尾芭蕉門下、江戸の蕉風派で「蕉門十哲」の一人。「其角住居跡」碑(写真下右)が日本橋茅場町の永代通りに面した所に建っている。お秋が住んだ小網町は日本橋川の北側で、其角宅とは至近距離にあったのだろう。
港区三田に和菓子店「秋色庵大坂屋」があり、同店のHPこちらには由来などが掲載されている。●巻渕彰