銀座の東側の旧「木挽町」、特に歌舞伎座の裏辺りは、銀座と言っても、狭い路地に木造家屋や看板建築があって、ちょっとレトロな雰囲気が残っている場所です。
もちろん大きなビルも多いのですが、個人商店や店舗を、そのまま建て替えたような、小さなビルも目立ちます。
そうした建物は、まだ昔からの住民がいらっしゃるのでしょうか、ビルになっていても、玄関先に植木を置いたりして、下町情緒たっぷりです。
そうした中に、とてもきれいな花の植木鉢と、メダカの泳いでいる石の手水鉢を置いている、小さなビルがあります。
オーナーさんにうかがったところ、なんと、この石の手水鉢は、明治時代に、オーナーさんのお祖父様がこの近くでやっていた、お団子屋さんで使われていた『石臼』なのだそうです。
右下の後ろ端が一部欠けているのは、
関東大震災の時に火災にあった為だったとか。
その後の復興計画で「昭和通り」を造る事になり、お団子屋さんは立ち退きになって、築地に移転して営業を続けました。
太平洋戦争の時には、聖路加病院の近くだったためか、空襲の被害から逃れ、石臼はその姿を保つことができました。
ところが、戦後になって営業を再開する際に、道具類を新しく買い換えることになり、この石臼は処分されそうになりました。
そこで、お団子屋さんの三男であったオーナーさんのお父様が「思い出のある品を勿体ない」と引き取ったのだそうです。
たまたまこの場所は、お祖父様がお団子屋さんを開業した場所のすぐ近く。
約100年もの間、関東大震災や戦禍をくぐり抜けて、この場所に戻ってきた『石臼』は、ビルに建て替え、お父様が亡くなった後も、ずっとすのままで、メダカたちの住処となって、通り過ぎる人達の目を楽しませてくれているのです。