三月にサラリーマン稼業から足を洗うまで毎日、銀座一丁目で地下鉄を乗り降りして職場まで30分ほど歩いた。地下鉄の駅の出口に気になる店がある。「お仏壇のはせがわ」である。可愛い少女が出てきて、「おててのしわとしわをあわせて、しあわせ。なぁ〜むぅ〜」というCMの店である。店を覗くと、お人形が展示してあったり、着物が展示してあったりして普通の仏壇屋さんとは少し違う。
散歩の途中で立ち止まってみると、お仏壇が一つも見えない。人形と着物しか展示してない。変だなと思って見ていると、男性社員が声を掛けてくれたので、店内に入ることにした。今回は人形作家の作品を展示しているとの事であった。「仏壇屋さんなのに何でこう云うものを展示しているのですか?」と前々からの疑問を質問してみた。
簡単に言えば「お仏壇と云うのは日本工芸の粋を集めたものであり、展示品はお仏壇製作に関係する工芸作家の作品です。」という返事だった。仏壇屋さんでも、はせがわさんクラスになるとお仏壇以外にも大寺院の内装等もするとのことだ。
「よろしければ当社のギャラリーをご覧になりませんか?」と誘われて六階に「ハセガワ・ミュージアム」があることを初めて知った。上がってみるとお仏壇だけでなく彫刻、塗物、金箔、絵画等の日本工芸美術品が色々と展示されている。お仏壇の製作にはこのような各種の工芸技術が不可欠との話を伺った。そういった関係から、はせがわさんでは東京芸術大学との関係も深いとのことである。
若い工芸作家を育てるために「東京芸術大学お仏壇のはせがわ賞」を提供され入賞した作品の展示会も開催されているとのことだ。展示品の中には東京芸術大学の院生の卒業制作の作品も何点か展示されている。将来はこういった作品の中から平成の文化財が生まれてくるかもしれないと思って見ると興味津々である。
当然、立派な仏壇も展示されている。明治時代のお仏壇が処分されそうになったものをはせがわさんが求めて維持管理されているものもある。現代ではなかなか出来そうもない立派なお仏壇である。下世話な話だが一番高い仏壇の値段を聞いてみると私のマンションよりはかなり高い。しかし、すべてが超高価な訳ではない。これくらいなら私にも手が出そうと思われるものもある。
素晴らしい工芸作品をみて、これからも新しい企画があれば覗かせてもらおうと思っている。ひょっとしたら自分の終の棲家も見つかるかも知れない。