中央区立郷土天文館(タイムドーム明石)で第16回特別展「こどもの絵本、おとなの漫画~永井保原画展~」がはじまった。日本橋生まれの永井保は、昭和初期から平成期まで漫画、挿絵、水彩画、エッセイなどの作品で活躍した。4千点余に及ぶ遺品の寄贈を受けた中から、選りすぐりの作品が展示されている。会期は12月23日まで、月曜休館。入場無料、図録(A4判カラー刷、48ページ)は有償頒布(200円)。
永井保は大正4年(1915)、本小田原町(現日本橋本町辺り)の荷扱(仲買)業の家に生まれ、十思小学校へ通う。幼少のころから絵に興味を持って学び、23歳の頃、扉絵が雑誌に採用される。27歳で陸軍宣伝班として南方戦場に従軍した。「漫画集団」同人で、『絵本キンダーブック』挿絵掲載など漫画界で活躍する。『銀座百点』や『月刊日本橋』に絵入りエッセイなども連載した。平成16年(2004)、88歳で逝去。
絵画・イラストでは風景スケッチのうち約1割が中央区を取り上げて描かれているそうだ。日本橋の思い出として、魚河岸や本小田原町のありし日の風景が遺されている。従軍中の作品には兵隊が出発する情景を描いた水彩画などの戦争画が並ぶ。戦場から帰国し、終戦直後の昭和20年(1945)9月、彼岸の中日に家族に送った絵入りの手紙はまさに絵巻物のようだ。
戦後再編された「漫画集団」は、永井が理事となって務め、やがて横山泰三、加藤芳郎、小島功、手塚治虫などの著名漫画家が加わったそうだ。永井が記録した同集団の活動や動向の資料は貴重なものという。4コマ漫画や風刺画などでも活動したほか、子ども向け絵本や雑誌にも多くの作品を残している。なかでも『キンダーブック』(フレーベル館刊行)には昭和20年代から手がけ、その色彩豊かで、楽しい絵柄の原画が展示されている。
タウン誌『銀座百点』で昭和42年(1967)-同44年に連載された「銀座ばやし」と、『月刊日本橋』で昭和54年(1979)-同62年まで連載の「にほんばし思い出帖」に興味が沸く。「銀座-」では戦前の銀座風俗が活写されている。「にほんばし-」には昔日の日本橋の正月風景や町並みが描かれている。
この特別展はひとりの漫画家という枠を超え、永井保の視点と感性が捉えた時代や社会への鋭い眼差しが伝わってくるようだ。堅苦しい歴史話とは趣を異にし、戦前・戦後を体験した表現者としての本展は一見の鑑賞価値がある。@巻渕彰
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