日本初の火力発電所は中央区にあった。日本橋茅場町に「電燈供給発祥の地碑」(写真)がある。明治20年(1887)11月21日、東京電燈会社(現東京電力)が発電所を建設し、付近の会社に電燈を供給したという。
記念碑には、配電線による最初の電燈供給で、30馬力の横置汽機を据え付け、20KWエジソン式直流発電機1台を運転。210ボルト直流で、電燈は日本郵船会社、東京郵便局などに供給された、とある。
エジソンが発明した世界初の火力発電所は1881年、ニューヨーク市への電力供給であったそうだ。その技術が6年後、日本のこの地にも導入されたことになる。石炭を燃料に発電した電力量は、白熱電球でわずか1600個分という。当時は電燈のみに電力を使っていたので、それで足りたようだ。しかも直流(現在は交流)で供給していたので、送電範囲は数km程度と狭かったようだ。明治期の古地図を見るとこの地には「電燈局」の表示がある。
明治初期から第一国立銀行の創設をはじめとして、この地域一帯をビジネス街として計画していた実業家・渋沢栄一は発明したエジソンと会っていた。明治42年(1909)、渋沢を団長とした渡米実業団一行はエジソン電気会社を訪ねている。
作家・谷崎潤一郎は自叙伝『幼少時代』で、発電所の音が聞こえるこの付近に住み、坂本小学校に通った、と著している。この発電機は上野の科学博物館に「エジソンダイナモ」=日本最初の事業用火力発電所で使われた、として展示されている。@巻渕彰