「東京マラソンを走ってみようか。」
仕事の打ち上げで、酒の勢いからつい出た言葉。
その話を一人が受ける。
「テレビ中継もあるし、決めポーズが映ったら、かっこいいよね。」
「俺は、マラソンなんて走れないな。途中から救急車だよ。」
「倍率が高いんだから、参加できるとは限らない。運試しも兼ねて、エントリーしようよ。」
「裏切るな。絶対みんな、登録するんだぞ。」
翌日、日ごろの運動不足も顧みず、勢いで職場のおじさんたちはパソコンに向かいました。
数か月後に着信した結果は、
10倍を超える倍率に、全員不合格。
3万5千人のランナーに選ばれるのは、なかなか至難の業です。
それでも、いったん動き出した気持ちは、次の目標に向かいます。
大会をサポートするボランティアの募集がある。
うん、これだな。
2014年は、ソチ冬季五輪、サッカーのワールドカップをはじめとする国際大会が続きます。
その熱気が、「何かしなくては」という気持ちに火を点けました。
そして、2020年の東京五輪開催決定により、明確な目標が心の中に打ち立ちました。
6年後、何らかの形で関わりが持てたならば、素敵なことじゃないですか。
東京マラソンのボランティアは、活動エリアを希望登録することができます。
それならば、やはり中央区内にしましょう。
決定通知は、銀座・日本橋エリア15区、日本橋茅場町。
私の役割は、ランナーにトイレのある場所を知らせることです。
地味ですが、必要に迫られると、がぜん優先順位が高まる重要な任務です。
(経験した方なら、分かりますよね。)
2月23日(日)、前2週続けての記録的降雪による懸念は、晴れました。
時折雪が風に乗る、キーンと張った空気の中、笛太鼓の音が流れてきます。
近くの、首都高兜町駐車場前の応援パフォーマンスです。
中央区の地元団体によるお囃子。
小学生の音楽演奏。
気分が高鳴ります。
車いすランナー、そしてトップ集団の姿が現れると、うわあっと声援が広がります。
午後からは、陽射しも出てきました。
都市の風景の中を力走する選手。
仮装大賞を思い起こさせる、手の込んだ衣装の選手。(目立つ分だけ、走りにくそう。)
思い思いの走り、人の波が、次々に目の前を過ぎていきます。
海外からの参加者も増えたようです。
東京マラソンは、2013年からワールドマラソンメジャーズに加入しました。
ボストン・ロンドン・ベルリン・シカゴ・ニューヨークシティマラソンと並ぶ、世界のトップレースです。
困った顔の外国人ランナーに、とっさの単語が出てこない歯がゆさ。
苦し紛れの、身振りと笑顔で対応。
なんとか通じました。
次回は、もう少しスムーズに案内できるようにしましょう。
復路は、通り中央のカラーコーンまで進み、応援です。
手を振り、拍手をし、声をかけます。
ハイタッチやお辞儀での返事が返ってきます。
ちらっと投げかける視線だけでも、その思いは伝わります。
目頭がじゅわーっと熱くなって、一瞬、ビルの風景がうるんで見えました。
1万人で構成されたボランティア。
その年齢は、結構幅がありました。
ずっと立ち続けなので、ご高齢の方には少し気の毒でしたが、無理せず関われる範囲で、
一緒に楽しむ気持ちがあれば十分だと思います。
そういう私も、解散時には声はかれ、足がパンパンになりました。
心地よい疲れでした。