毎年恒例の新橋の芸者衆による「東をどり」が、5月24日~27日まで、新橋演舞場で行われました。
料亭や見番・置屋等が銀座や築地周辺にあるのに、なぜ「新橋花柳界」というのかは、以前にご紹介しましたが、もともと新橋芸者の技芸向上を披露する場として建てられた「新橋演舞場」で、第1回の公演が行われたのは大正14年。
それから数えて、今年は90回目の記念公演となるということで、私も久しぶりに観にいってきました。
まずは劇場の玄関を入ると、すぐ正面に「東をどり」の提灯が華やかに飾られています。
ロビーには、いつにも増して着物姿の方が目立ち、料亭の女将さんらしき方が、あちらこちらでご挨拶をしていらっしゃいます。
左手奥には、特設の「さ・か・す(酒・菓子・鮨)売場」のコーナーがあって、飲み物や東をどり限定のお菓子に、料亭それぞれで味付けの違うお弁当等が販売されています。
反対側のエスカレーター前の売店では、やはり限定のお菓子やグッズを販売。
ちょうどCD位の大きさに、芸者衆の写真が印刷されたパッケージのチョコレート等もありました。
2階に上がれば、芸者衆の名前の千社札や団扇、扇子等の販売、日本酒の枡売り、ドン・ペリニヨンのグラス販売のコーナーもあります。
普段は食堂になっている場所は、お茶席になっています。
あちこち見ているうちに、開演5分前のブザーが鳴ったので、とりあえずは客席に急ぎます。
東京オリンピック招致のプレゼンで流行語にもなった「おもてなし」。
様々なところで見直されている日本のおもてなしの伝統ですが、その究極とも言える花柳界。
そんな中でもトップクラスの、新橋花柳界の雰囲気が味わえるとあって、客席は満員です。
まずは幕が開いたとたんに、その艶やかさにホーッというため息が、場内に広がります。
ベテラン芸者衆5人が「青海波」を格調高く舞いますが、清元や三味線の地方さんたちも、もちろん芸者衆です。
目出度く舞い納めて幕が下りれば、30分の休憩。
とは言ってものんびりはしていられません。
なにしろ、この劇場を料亭に見立てて、休憩時間にお楽しみいただけるように、様々な趣向が凝らされているのです。
とりあえずは売店に行って、プログラムを購入。
90周年記念らしく、金地に朱色で「東をどり」と題字が入り、上に藤の花が金で箔押しされています。
華美にならず、さりげない所に贅を尽くす粋さが、いかにも「新橋」という感じのデザインです。
ちなみに、第68回の表紙は、橋本明治による、伝説の名妓まり千代像です。
また、題字の「東をどり」は、料亭「金田中」の先々代のご主人によるもの。
そして、街中に貼られている赤いビラの「東をどり」の文字は、同じく「金田中」の先代のご主人によるものだそうです。
そして売店で発見したのは、絵札も取り札も新橋芸者衆の手になる「芸者かるた」。
とても雰囲気があり、めったに手に入らない物なので、早速購入しました。
グッズ売場には、鬘に衣装をつけた芸者さんもいて、皆さんの記念撮影の依頼に気軽に答えていらっしゃいました。
お茶席では、正装の芸者さんの御点前を拝見しながら、お薄と虎屋のお菓子をいただけますが、こちらは順番待ちの長蛇の列でした。
他にも沢山のコーナーがあるのですが、そうこうしているうちに、あっという間に次の幕の時間になってしまいます。
春の「醍醐の花見」では、芸者姿ではなく、秀吉・北の政所・淀君・千姫に扮装して登場。
夏の「滝の白糸」では、本物の水を使って見事な水芸が披露されます。
秋は「陸奥の旅」と題して、東北への想いを込めて、大漁唄い込み、会津磐梯山等の民謡の群踊です。
冬の「夜の梅」では有名な「藤十郎の恋」をテーマに、ベテラン2人がしっとりと踊ります。
そしてそして、いよいよ待ちに待ったフィナーレです!
暗転した舞台に、太鼓と鉦の音だけが鳴り響きます。
え~まだなの?と思うくらい時間がたった頃に、やっと柝が入って、舞台は一転して、料亭の大広間に変わります。
真ん中には鳶の頭がいて、左右にズラリと出の衣装の芸者衆が勢揃いします。
来場のお客様へ、渡り台詞でご挨拶があり、一本締めで手締めをした後は、歌舞伎で吉原の場面等でよく使われる「さわぎ」という賑やかな曲に、久保田万太郎が詞をつけた東をどりの曲にのって、総踊りが始まります。
「ここに出たいから新橋芸者になった」という方もいると聞いたことがありますが、何度観ても、ため息が出るくらいに綺麗で、惚れ惚れとするぐらいに粋なのです。
ボーッと見とれていたら、舞台では、いつの間にか花道の方にまで広がった芸者衆が、やおら手拭いを客席に向かって投げ込みます。
客席では、その手拭いを取るのに大騒ぎ。
2階や3階でも、関係者が撒いてくれますので、十分にチャンス有りです。
頃合いを見計らって、その日の「芯」になるお姐さんが、トンと足で舞台を打てば、再び唄と踊りが始まります。
・東をどりは日本のをどり~、という歌詞が、最後には・世界のをどり~となって、幕が下ります。
終わった途端に、客席からは「ああ、綺麗だった~」「ああ、素晴らしかった!」という声があちこちから聞こえていました。