中央区観光協会オフィシャルブログ

中央区観光協会特派員ブログ

中央区観光協会実施の「中央区観光検定」に合格し、特派員登録をした観光ボランティアメンバーによる中央区の“旬な”情報をご紹介。

執筆者一覧

>>このブログについて

最近のブログ記事

成瀬己喜男監督作品に見る中央区

[CAM] 2015年5月14日 09:00

昔の日本映画を見る楽しみとしては、内容そのものだけではなく、その中で映し出されている昔日の光景、当時の生活、会話等を再体験できることがあるでしょう。女性、特に水商売で自律的に生きる女性を好んで描いた成瀬己喜男監督の作品には、中央区の情景が登場するものが多い。

 

戦前のサイレント作品に「夜ごとの夢」(昭和8年公開)という、酒場で働く女性が主人公となったものがあります。佃島で撮影されたということで、当時の佃島情景が見られます。

 

さらに銀座のバーで働く女性を描いた作品に「銀座化粧」(昭和26年公開)があります。田中絹代演じる主人公は、まだ築地川が流れる水の町であった新富町の、昔ながらの町並みの中の路地にあるしもたやの二階に間借りしているという設定です。劇場プログラムのなかで成瀬監督は「新富町は都会にもこんな所があったかと一寸首を傾けてみたくなる様な、なつかしい江戸の情緒をしみじみと残している町です」と書いています。昭和26年には日本はまだ占領下でした。田中絹代が三十間堀川近くを歩く場面がありますが、川は空襲の時に出た瓦礫で埋め立てられつつあります。道端にはまだ瓦礫が少し残っています。そして、この映画の中の田中絹代は、終始着物姿です。

 

「女が階段を上る時」(昭和35年公開)の時代設定は昭和30年代中期ですから、我が国が戦後復興から高度成長の時代へと変貌し始めたころです。その頃、「バー」が全盛期を迎えようとしていました。題名にある高峰秀子演じる「女」とは、夫を交通事故で亡くした30歳の未亡人で、銀座のバーで雇われマダムをしていますが、実家が佃島という設定です。体調を崩した「女」が実家で静養するという場面で、佃の家並み、佃の渡し舟風景、住吉神社の鳥居が登場します。成瀬監督は、十代の頃、築地にあった工手学校に通っていたことから、築地川界隈には格別の思い入れがあるそうですが、本作にも築地川が出てきます。

 

 築地川が登場する作品としては、やはり昭和35年公開の『秋たちぬ』があります。二人の子供が主人公ですが、その母親が勤める旅館が築地川沿いにあります。その二人が、銀座のデパートへ行ったり、勝鬨橋を通って晴海ふ頭まで遊びに行くシーンもあります。

 

(これらの作品は、Youチューブで見ることができます。)

 

高度成長からバブル経済期を経て、今はほほ完全に消えてしまった古き良き情景や社会が、昭和30年代まではまだ残っていました。成瀬監督作品を見ると、そのことをしみじみと感じとることができます。