「女が階段を上る時」は昭和35年公開の作品です。我が国が戦後復興から高度成長の時代へと変貌し始めたころで、その頃、「バー」が全盛期を迎えようとしていました。題名にある高峰秀子演じる「女」は、夫を交通事故で亡くした30歳の未亡人で、銀座のバーで雇われマダムをしているという設定です。
表通りから少し裏に入ったバー街が主たる舞台ですから、銀座の表通りなどの情景はあまり出てきませんが、高峰秀子と仲代達矢が三吉橋を渡るシーンがあります。三吉橋の向こうに見える橋は新富橋でしょうか。橋の下にはまだ築地川が流れています。
この高峰秀子演じるヒロインの実家が佃島という設定です。体調を崩した「女」が実家で静養するという場面で、佃の家並み、佃の渡し舟風景、住吉神社の鳥居が登場します。その佃島の実家を見舞いに訪れたバー経営者細川ちか子は、「佃島なんてはじめて来たけど、このへんはなんだか昔の東京の名残りみたいなものがあるわね」と言っています。
佃の渡しは、成瀬己喜男監督の「夜ごとの夢」(昭和8年)にも出てきます(You Tubeで見ることができます)。子供を抱えてカフェーで働くヒロイン栗島すみ子は佃島に住んでいるという設定で、戦前の佃島の情景を見ることができます。
豊田四郎監督の「如何なる星の下に」(昭和37年)では、廃止直前の佃の渡し舟や埋立直前の築地川が頻繁に登場するそうですが、私は見ておりません。DVD化はされていないはずです。 著作権が消滅してYou Tubeで公開されていない限り、古い日本映画を見ることは難しいですね。