毎年2月を過ぎると「隅田川の中央大橋のたもとにある河津桜が開花しました」という便りが聞こえてきます。
隅田川にも、そろそろ春が訪れることを感じさせてくれます。
(2月14日の河津桜)
隅田川にかかる「中央大橋」。93年に開通したこの橋は、月島・佃地区から東京駅の八重洲口までを1本の道で繋いでいます。
今回は私が感じるこの「中央大橋」についてのお話しです。
白くて高い主塔が非常に特徴的ですが、ケーブルが主塔の上のほうから出ているので、この橋の近くに来ると自然に視線が空の方に向いてしまいます。
近隣に高層マンションが多いこの街並みに調和した「高さ」のある主搭により、橋が街並みに埋もれることなく存在感が示されていて、さらにケーブルが作りだす「斜め」の線が直角ばかりの街並みに少し違ったアクセントをもたせてくれている気がします。
この白い主塔ですが、「兜(かぶと)」の形を模しているのだとか。かつて佃地区は、江戸時代は佃島や石川島といった島でしたが、石川島はかつては鎧島(よろいじま)と呼ばれていたそうで、この「鎧」の対をなすものして「兜」というデザインになった、という風に言われています。
兜かぁ。
見方によっては、「バンザイをした巨人」のようにも見えますし、
見上げる場所によっては、「巨大な蜘蛛」のようにも見えます。
まぁ、何に見えるかは人それぞれでしょうか。こういうのは子供さんのほうが得意かもしれませんね。
この橋は歩道が広く、植栽まであったりするので気持ちよく歩けるのですが、大きな特徴としては橋桁が大きく「カーブ」している点があげられます。
橋の種類としては「斜張橋(しゃちょうきょう)」というタイプ。斜張橋は主塔から出る数本のケーブルを直接橋桁につなげて橋桁を吊ります。
主塔の本数やケーブルを出す位置など、その場所の景観に合わせた自由度の高い設計ができるので、最近はその数が多くなっているそうです。
(斜張橋の例:尾道にある尾道大橋(奥)と新尾道大橋(手前))
中央大橋の場合、カーブしている橋桁を吊っているので、おそらく複雑な計算をして設計がされたのだと思うのですが、最近ではこういった複雑な形の橋が斜張橋で実現できるようです。
(橋桁の平面図)
また、橋桁はカーブだけでなく上向きに弓なりにもなっているので、この橋を渡ろうとすると、渡った先のほうがよく見えません。
「この先の橋の向こう側ってどうなっているのかな?」と思ったら、弓なりの頂上、カーブの頂点にあたる橋桁の真ん中あたりに足が向かうことになります。
その橋桁の真ん中あたり、進行方向のどちらを見ても一番見通しが良いのが「カーブの外側」。ここで川の方向を見ると、オシップザッキン作の「メッセンジャー像」が現れます。隅田川とフランスのセーヌ川は友好河川ということでパリから寄贈されたこの像が隅田川の上流側・永代橋やスカイツリーの方向に向けて飾られています。
右腕にパリ市の紋章である帆船を抱いている像なのですが、橋の上からは像の前側がよく見えず、どうなっているのかわからないのがこの像のミステリアスなところです。
この橋の隣にある石川島公園の北側には東京とパリの友好関係を示す「パリ広場」があり、中央大橋の設計もフランスのデザイン会社であることから、この橋の付近は「フランス」や「花の都パリ」の香りがする場所となっています。この橋はパリとの友好関係の象徴と言っても良いかもしれません。
(11月15日・月島の隅田川テラスより中央大橋方面)
そして、この中央大橋のある場所の一番の特徴。それは桜が咲く公園が3つも隣接していることではないでしょうか。
佃公園と石川島公園と新川公園。いずれの公園も春になると隅田川沿いに桜が咲き、隅田川の春に彩りを添える場所になっています。
(2015年:石川島公園)
公園を歩くと、ついつい写真の四角形の中に桜と中央大橋を入れてしまいます。これほど桜に囲まれた橋はなかなか無いかもしれません。
(2015年:新川公園)
こうして見てみると、春の中央大橋は「筝(こと)」のように見えてきます。
ケーブルは糸、そして白い主塔は巨大な琴柱(ことじ)のようで、「春の海」とか「さくらさくら」とか・・・春の奏でが聞こえてきそうです。
(2015年:佃公園)
桜咲く春。訪れまでもう少しかかりそうですが、暖かくなりその季節がやってきたら、中央大橋の周りに咲く桜に囲まれてみる。
そして春の音色を感じてみるのはいかがでしょう。