ビルの谷間に木造の町家建築を見つけると、ポーッとその周辺だけが時代の香りを漂わせているようで、懐かしい感覚にとらわれます。
銀座や日本橋の辻角に、そうした建物を見つけた日には、よくぞ幾多の試練を乗り越えて姿をとどめてきたものと、感心することしきりです。
震災、戦災、高度経済成長期の地上げの荒波。
移動する手段がない建物にとって、耐え忍ぶしかない状況です。
こうして今に残るのは、きっと、所有していらっしゃる方々の並々ならぬ思いが注ぎ込まれた証しなのでしょう。
中央区立郷土天文館〈タイムドーム明石〉の区民ギャラリーで、中央区内に残る近代建築物のパネル展が、7月3日(日曜日)まで開催されています。
私、この企画を待っていたのです。
確かにどこかで目にしたはずなのに、明確な所在地が分からないまま過ごしてきた建物。
再び、巡り合える好機です。
展示されているパネルは23枚。
町家建築からビル建築まで。明治期から昭和40年ころまで。
区内には多様な建築材料、構造、デザインに特徴のある建物が建てられてきました。
「華の東京のど真ん中」ならではの種類の豊富さであり、現存していることに敬意を表します。
パネルの写真だけ見流せば、1分もあれば会場をひと回りできます。
でもそこは、とても楽しみにしていたものですので、じっくり拝見させていただきました。
建物本体の写真をメインに、
1、建物の特徴
2、建物にまつわるエピソード
3、建物情報(所在地、創建年、構造・規模、用途、大工等)
4、写真(建物の内部写真や、細部の意匠、活用されている状況など)
が、一枚に盛り込まれています。
エピソードには、建物に対面した時の注目箇所がまとめられており、それまで気づかずに見逃していた部分が、すっきりと目の前に広がるようです。
会場内の机に「用語解説」のプリントが用意されていました。
パネルに表記された建築用語や建物に関連する人物について、分かりやすい説明が記されています。
プリントと合わせてパネルを見れば、建築初心者の私でも、十分に見どころが理解できます。
そして、同じく用意されているパンフレットが嬉しいのです。
23枚の建物写真が載っており、各建物の所在箇所を示す地図もついています。
目的の建物に、迷うことなくたどり着けそうです。
会場のギャラリー前の通路の壁面には、震災後の銀座通りを描いたパノラマ絵巻が掲出されていました。
細やかに描かれた建物の一つひとつが、活き活きと見えました。