もう20年以上前になるだろうか。
休日午後の電車の中。家族でお出かけの帰り道。
よちよち歩きの息子が急に「ウッウッ」ともがきだし、顔面が紅潮していった。
どうした。なにが起きた。
事情が呑み込めないまま、凍りついたように様子を見ていた。
妻がすくっと立ち上がり、息子の両足をつかんで逆さまにした。
パンパンと背中を叩いた。
口の中から、丸い形のままのタブレットのお菓子が飛び出した。
車内の乗客たちも、妻の行動に息をのんでいたが、タブレットを吐き出してきょとんとしている子供を見て、ほーっと安堵のため息が広がった。
奥さん、凄い。
わが子の緊急事態とはいえ、とっさにあんな行動がとれるなんて。
日ごろの天然さが嘘のよう。
いざという時には、できる子だったのですね。
どこで教わったの。
状況を聞けば、先輩ママ友が、異物を詰まらせた子に行った処置であり、とっさにそれをやってみたという。
今は、逆さにするのではなく、太ももの上でうつ伏せにして背中を叩くことが、基本になっているようだ。
1月28日土曜日、京橋消防署銀座出張所の防災教室で、「普通救命講習」を受講した。
中央区観光協会主催の、「まち歩き引率者ガイド講習」の一講座である。
高層ビルが建ち並ぶ、人口過密都市「東京」で生活していれば、異常事態にも相当な確率で遭遇するだろう。
多くのゲストを案内している途中という場面もあるだろう。
知っていれば、やったことがあれば、無意識に体が動くこともある。
3時間の講習の中心は、胸骨圧迫による心肺蘇生法とAEDの使用方の実践訓練。
講師は、救急隊員としての経験が数十年という超ベテラン。
講習テキストを見ることもなく、サクサクとポイントを示していく。
経験の豊かさは、テキストを超えた具体的なエピソード満載で、講義に厚みを持たせてくれる。
これまで受講した講座と変わって来ているところがいくつかあった。
ひとつは、救急救命に伴う免責事項。
民法・刑法ともに、善意に基づいて実施した救命処置について、責任を問わない。
心置きなく、行動に移してよいのだ。
もう一つは、SNS社会における様々な配慮が必要であること。
ともすれば、傷病者の画像などが拡散しかねない危うさを持つ、昨今の情勢を踏まえたものである。
そして今回の講習の特徴は、多くの時間を胸骨圧迫法の訓練に割り当てていることだ。
「これだけやれば忘れないでしょう。」
「体が覚えているから、できますよ。」
東京マラソン時にも、AEDを携帯したドクターが走っているという。
オリンピックを迎えれば、多くの国からゲストが来日する。
「押せば助かるんですよ。」
傍観者から一歩前に出る、後押しをされたようだ。