歯ぐきに当たるヘッド(植毛部)の感覚が心地よい。
これがお馬さんの尾っぽの毛なの?
尾っぽといえば、うるさいハエをぴしゃりと打ち据える、しなやかな強さ。
そのイメージをくつがえす、繊細な柔らかさだ。
動物の毛は、刷毛や洋服ブラシに使われる。
肌に触れるものは、整髪ブラシや化粧刷毛までかな。
口の中に入れる歯ブラシの素材としては、これまで馴染みはなかった。
使ってみると、シャキシャキと磨けて、歯の表面がつるつるになった気がする。
※ これは個人的な感想です。
日本橋大伝馬町2丁目16番地に、刷毛・ブラシ専門店の「江戸屋」さんがあります。
中央区まちかど展示館巡りを楽しみに、開館している平日に、「江戸屋所蔵刷毛ブラシ展示館」を訪ねました。
大伝馬町通りに面した店舗の外観までも、目を細めて見ると、刷毛の形に見えてきます。
この建物、国の登録有形文化財に指定されているのです。
店内に入ると、左右のショーケースには、都指定の伝統工芸品となっている「江戸刷毛」や、刷毛・ブラシに関する資料が展示されていました。
店の方に声掛けすると、ケースからいくつかを取り出して、触れさせていただきました。
「この中で一番古いものは、この漆刷毛です。
漆器を作る過程で、漆を木地に塗るための必需品です。
女性の髪の毛でできているんですよ。」
時代劇などで、自らの黒髪を売って家計をやりくりする、けなげな妻の姿が描かれますが、その黒髪はかつらの材料だけでなく、刷毛の素材としても活かされていたのですね。
「ブラシは、柄に毛束を植える製法で、明治期以降に広まりました。
刷毛は、毛を板ではさんで製作します。」
説明を受けながら実物を見ると、なるほど違いがよく分かりました。
江戸屋さんは、享保3年(1716年)の創業だそうです。
その屋号も、将軍家お抱えの刷毛師だったご先祖が、将軍家から賜ったものとか。
享保年間といえば、8代将軍徳川吉宗公の時世ではないですか。
創業以来、ちょうど300年を数える老舗なのです。
江戸刷毛は、天然の素材を用い、職人さんの丁寧な手仕事から生み出されます。
その作品を、暮らしの中で日常使いにできる贅沢さ。
天井に、刷毛やブラシの材料となる幾種類もの毛の束が吊るしてありました。
きっと、思いもよらないめずらしい素材もあるのでしょう。
次は妻と来ますので、また教えてください。