「日本酒を飲む女性のイメージは」
そうだな、和服が似合う女性。目元涼やかでね。
そして、仕事のできるキャリアウーマン。
億単位の数字なんかをさらりと使いこなす様な。
いずれも、きりっとした辛口の印象だ。
そんな人が仕事終わりには、絶対にカシスオレンジではなくて、
大吟醸を「もっきり」でやっている姿を目にすると、キュンとなってしまう。
独断だが、かつて日本酒は、仕事の憂さをはらす酔うための道具であった。
それが、今や日本酒はできる女性のアイテムに変化している。
確かに近年の日本酒は、格段に美味くなった。
飲み口の軽やかさ。芳醇な香り。
日本酒をたしなむ女性を、より華やかに演出してくれる。
女性が酒のトレンドを先取りしているとさえ言われる。
では、「どの日本酒がうまいのか」
これは、もう先に言ってしまおう。
今飲んでいるやつが一番だ。
百の酒あれば、百の美味さがある。
千の肴があれば、千の広がりになる。
十の人がいれば、十の生き様がある。
ひとりの時ですら、酒は美味くも、辛くも、苦くも感じられる。
うまい酒に出会うための道しるべとなるのが、「全国新酒鑑評会」の金賞だろう。
今年、都道府県別の金賞受賞数で、5年連続日本一になったのが福島県である。
日本酒は、良い米、良い水、良い風土に支えられ、蔵元と杜氏の精進によって生み出される。
必ずしもビッグネームが鑑評会に出品しているわけではない。
が、真摯に、頑なに酒造りに向き合ってきた地域だということは、間違いなく言えるだろう。
福島県の金賞受賞数は、22銘柄。
それを片っ端から飲むとしても、相当な労力が必要となる。
日本橋室町4-3-16にある、日本橋ふくしま館MIDETTE。
ここの日本酒のコーナーは充実している。
大きな保存庫を備えており、中で一本一本が大切に出番を待っている。
今週の飲み比べセットが、500円で提供されている。
ガラスの酒器に3銘柄が並ぶのだが、味の違いを楽しむにはもってこいである。
イートインの福島の食をつまみにするのも、面白い。
日本一のふくしまの酒『福の酒』として、福島県は県産の日本酒を取り扱っている、23区内の飲食店マップを公開している。
宣伝広告活動の下手な福島にしては、なかなかの快挙である。
ファーストクラスの機内酒として用いられたり、様々な国際会議時の酒として選定されたり、その実力は確固としたものになっている。
私は「福の酒」を痛感している。
初めて、妻の両親を訪ねたとき、
「挨拶はもういい。まず飲め。」
剣道教士の義父が酒を進めた。
私も体育会で生活し、「仕事ができるやつは、酒も飲める」という理不尽な職場風土で生きてきた。
なに、こんなおやじに負けるものかと気を込めて、居住まいを正し、杯を受けた。
人生の中で、最も飲んだときだった。
「おう」「いただきます」「どうぞ」「おう」というテンポで、
前のめりに、泳ぐように、のどに流し込んだ。
徳利が一升瓶に、猪口がグラスに変わっていった。
ヘビー級とフライ級のウェイトの差は、瓶を空けるごとにでてきた。
胃の中がひっくり返って、暴れ出した。
戦国末期、黒田家家臣の母里太兵衛は、福島正則との酒比べで、
名槍「日本号」を呑み取ったという。
私もまた、ぶざまな姿ではあったが、義父の「娘を頼む」という言葉とともに婚約が成った。
空になった数本の酒瓶にはいずれも、福島の会津のラベルが貼られていた。
あたたかい「おもてなし」だった。
私の「福の酒」になった。