京橋の滝山町の
新聞社
灯ともる頃のいそがしさかな
銀座6丁目6番7号。
並木通りに面した歩道に、石川啄木歌碑がある。
若き日の啄木の肖像の浮彫。その下に三行書きの歌が記されている。
歌集「一握の砂」に収められた作品である。
碑の後ろ側に、キツツキが止まっているのが、愛らしい。
キラキラしたブランドショップの前なので、啄木をイメージできにくいかもしれない。
この場所は、朝日新聞社の前身である、東京朝日新聞社の創業地なのだ。
啄木は、明治42年3月から校正係として、ここの社屋に勤務していた。
京橋区は、日本橋区と統合し中央区となる前の行政区。
情報の集積地であり、発信の地である。
夕方になれば、取材を終えた記者たちが社屋に戻り、輪転機が響く中で、熱気を帯びた怒鳴り声が飛び交う。
インクの重厚な匂いも立ち上ってくる。
社屋の窓々から、活気に満ちた輝きが流れ出している。
啄木にはめずらしい、動きのある仕事の歌である。
中学2年の国語の時間。教師は啄木の歌集から百数十首を選び、暗記する課題を出した。
それを競技として、クラス全員の総当たりの暗唱大会を開くのだ。
いかにもな暗記お仕着せシステムに抵抗は感じていたが、声に出して数回読み上げてみると、胸の中にギシギシと音を立てて降りてくる。
くそっ、啄木め。
不来方(こずかた)のお城の草に寝ころびて
空に吸はれし
十五の心
文庫本を手に、盛岡城址で空を眺めてみた。
ずいぶん昔のことだ。
城跡を下りて、中津川に架かる中ノ橋を渡ると、明治43年竣工の旧第九十国立銀行本店本館がある。
この重要文化財の建物を活かして、現在は「もりおか啄木・賢治青春館」という文学館になっている。
展示を見て回る。
あふれ出てくるんだなぁ。
甘酸っぱい、ほろ苦い記憶とともに、啄木の歌が。