まるで五月人形のような、可憐さ。健気さ。
静御前と忠信が、扇をかざして舞を決めると、
すかさず、『ご両人!』
演じる子供役者も、気分が乗ってくるところです。
もう、かつらや衣装の重さなんて感じません。
振りやせりふの一つひとつを、一所懸命に稽古してきたのでしょう。
師匠や先輩たちからの、厳しい激励があったのでしょう。
所作の隅々に、そうした稽古の跡が表現されていました。
境内を埋め尽くした観客から、温かい拍手が止みませんでした。
時は、平成30年5月5日。
子供の日で、端午の節句。菖蒲の節句。
所は、中央区湊1丁目の鐵砲洲稲荷神社の神楽殿。
演じますのは、「新富座こども歌舞伎」の面々。
鐵砲洲稲荷神社御鎮座千百七十八年例大祭の奉納公演の演目は、
口上に始まり、「寿式三番叟」、「義経千本桜の吉野山」、「白波五人男の稲瀬川勢揃の場」の豪華三本立て。
平成という年号で行われる最後の公演は、五月晴れの下で行われました。
太陽を隠す一片の雲もなく、境内の大樹の葉がつくり出す日影が上席。
舞台は、花の盛りの鎌倉稲瀬川堤。
「志ら浪」の文字が入った番傘に、ど派手な模様の紫地の衣装。
「問われて名乗るもおこがましいが、・・・」
待ってました。連ねのせりふ。
勢揃いした五人の男が、次々に名乗りをあげます。
あなた、誰がお好みですか。
非道はしない悪の頭目、日本駄右衛門。
娘にも若殿にも化ける、変幻自在な弁天小僧菊之助。
利平、十三、力丸も頭級の悪者です。
あれっ。でも、捕手に囲まれて窮した時に、いちいち名乗りを上げるもんなのですかね。
名を惜しむ武士同士の戦では、名乗りを上げるのがたしなみ。
桃太郎侍だって、遠山の金さんだって、決め台詞があります。
そうそう、戦隊ヒーローも敵に対して、ごあいさつのポーズを決めてから攻撃していましたよね。
いつもかっこよく、決めて行きたいものです。
小さなころから芸能に親しむ機会があって、新富座こども歌舞伎の小学生たち、素敵だと思います。
本格的な指導をしていただける師匠がいらして、こんな整った神楽殿でお披露目ができるなんて。
多くの観客の前で演じる楽しさを知ってしまった子供たち、将来の活躍が楽しみです。