『ギフト、そして自分も楽しむ』をアウスレーゼとして取材します、rosemary seaです。
人形町 きく家(きくや)さんは、日本橋人形町の大観音寺(おおがんのんじ)から日本橋小学校へ抜ける小路にたたずむ小粋な日本料理店です。
『人形町酒亭きく家繁盛記』ロングインタビュー 前編 はこちら
⇒ /archive/2018/06/post-5346.htm
今回はその後編です。
今回も女将の志賀キヱさんにお話を伺いました、そのロングインタビューです。
それでは・・・
・・・映画とかテレビドラマの撮影はこの部屋でも行われたのですか?
いろいろな部屋で、ここもやりましたけど、(テレビドラマの)「新参者」のときです。
何か所か使いました。
・・・「新参者」のときは囲炉裏のある部屋もありましたね。
今は壊しちゃいましたが、囲炉裏で写真を焼いたシーンがありましたね。
この部屋は、(たい焼きの)あんこにわさびを詰めたところ(のシーンに関係があります)。
元々、このシーンは別館(きく家 はなれ)の方で撮影したかったようです。
でもカメラが大きすぎて(あきらめて)この部屋に代えてもカメラが近すぎて。
もし扉が真ん中にあれば、ちょっとバックして映せたんですけど。
別館もこの部屋も斜めからしか撮れないので、真正面から撮りたかったようです。
それで苦肉の策としてこの部屋の写真を何枚も撮っていって、(撮影所の)セットで再現して撮影したようです。
窓の大きさがちょっと違ったようですが、あとは雰囲気までそっくりに再現されて。
・・・お店の予約はどのくらい前からですか?
一般的に会社のご接待なんかっていうと、まあまあ1か月前ぐらいから入ってるんじゃないですかね。
・・・トイレは各部屋にあるんですね? 他の部屋のかた同士がお顔を合わせないように。
そうなんですよ。
お帰りの際は(お顔を合わせないように、同時は避けて)ストップしますね、必ず。
会社の役員さんなんかですと、お顔をよく知っていらっしゃるし、ぱっと見ればわかるかたもいらっしゃるので。
特に、SPや秘書のかたがついていて、外で待っていたりすると、もっと丁寧に対応します。
意外にさっとお返しするときもありますけど、基本的には全部止めます。
この本では運転手さんをお呼びするタイミングも、最後のお料理のフルーツをお出しする前も後もあり、となっていますが、例えばフルーツを出しました、それですぐ(運転手さんを)呼んでしまうと、もう10分以内に(車が)来てしまいます。
そうするとずっと(運転手さんを)待たせることになります。
お話が弾んでしまっているところ、お車が参りました、っていうのもなんか、「帰れ」みたいな感じなので。
それ、主催のかたと相談して、ではお声をかけてください、10分以内に(車が)来ますから、じゃ今は呼ばないようにしましょうかね、みたいな。
そういう暗黙の了解みたいなものはあります。
今の時期はわかりにくいですけど、真冬はわかります。お客様でコートを着ていない人は車を持っています。
お顔つき、年齢、それから座っている順番、ここで6人座ることはあまりないですけど、例えば接待側3人、ゲスト3人・ゲスト3人の場合で、車を2台呼んでくれって言われます。
タクシー2台呼んでください、っていうことはナンバーワンゲストは車がある、と想像するんです。
1番目のゲストがハイヤーがあるので、2番目・3番目のタクシーを用意してくれ、と想像します。
来るときは一緒でも、帰りは酔っているからお一人づつ帰る。
遠慮する場合ももちろんあります。
ありますけれどもその台数によって、例えば1台呼んでっていうことは、1番2番がハイヤーを持っている、と、まず想像します。
お客様の背広をかけるときは、我々はできる限りその名前(ネーム)を見るんです。
あからさまにこれをやってはいけないんですけれども、背広のネームをちらっと見る。
そうするとお客様の名前がわかります。
そのうちに何か話してるうちに、またはバッチをちらっと見たりして、どこどこの会社の何という人みたいだ、と。
ある程度料理の後半になってきまして、食事まで出さないときに、(従業員の)1人、周辺の車を見に行って、該当する名前の人のハイヤーがいたら、そうだ、と。
これらの情報を伝票の欄に記入します。
本にも書きました、お酒を飲む飲まないのしるしとか、名前の情報とか。
(背広のネームが)アルファベットで4文字で、頭の文字がKかHかわからないけど、途中にmaがある、とか。できる限りのデータを入れて。
例えば、請求書をここに出して、って言われて、「広報」って書いてあれば、接待される側は新聞社、雑誌社、またはそれに類するものっていう想像がつくので。
会社の役員さんとなると部署が書いてないので、外には出してはいけませんが、お話を聞いて、(話の内容で)何か薬関係かもしれません、とか、できる限りの情報をサービスの者は共有しています。
(たばこを吸わないのに)ここに灰皿をください、っていうお客様がいます。
そこにお酒を空けて、自分は最後の車までしっかりしていないといけない、と。
つらいなあ、かわいそうだなあと。事情があるでしょうから。
あまり露骨にならないように、我々は接客側の補助として働きます。
例えば、ゲストのお客様がお部屋の中で、「今日は僕が払いますよ」って言ってくれれば、こっち(接待側)が納得してくれればいくらでもいいんですけど、もしお客様がお部屋から出てきて「お会計は僕がしますから」と言ってもそれは一切受け付けないんです。
「では、確認しますから」って言って「ご予約したかたに確認します」と。
だいたいアウトですね。接待側のかたの払いとなります。
こういったこと(ゲストが払うこと)は経験がないと、細心の注意ですけどね。
車を呼んで欲しい、というときはこちらから声掛けしなければ(席を)立たないので安心ですけど、車がないとか、全員ハイヤーを持っていたり、とか、8部屋全室満室、とか、帰る順番がけっこう大変です。
忘れ物をみるのが一番大変なのです。
我々接客のスタッフは、下まで誘導する者が1人、それと必ず1人は全部この座椅子などを外して、座布団も上げて、掘りごたつにも何か落ちていないか確認します。
片づけはそのあとでしょうね。
・・・傘の忘れ物・取り違えには苦労されますよね。
傘はね、(買い換えて差し上げるにも、ブランドは同じでも)ちょっと違うとか、長さが違うとか。
デパートだったら(ブランド物が)全部あると思ったら、無いんですよ、特に昔は。
何とか買い直しとかしましたけどね。
・・・お客様の傘は部屋ごとにくくってあるのですよね。
紐がありまして、ここの部屋のは全部一緒にして。
だいたいひと部屋に1個、傘立てはあるんですけど、ここの部屋だけ2個あるんです。
小部屋でも必ず縛って、1本でも縛ってよ、って(従業員に)言うんですよ。
3階の部屋のお客様が、3階に別に傘立てがあると思わないで、1階の広間の傘立てが大きいものだから、ぽーんと入れた、という場合もあるんです。
ですので、(部屋ごとに)縛っておいてください、と。
お客様はだいたいいらっしゃったときに会社名を言うかお名前を言うんですよ。
でもその際(従業員に)会社名の復唱はしないでくださいって。
どこの誰が聞いているかわからないので。
〇〇様ですね、って言ってご案内してくださいって。
お部屋にご案内する前に、どこどこの誰々様のお席ですって必ず言って入ります。
細心の注意を払って。
間違えて、がらっと開けて入れちゃうといけないので。
よほど知っている人はね、この部屋だっていうのは構わないですけど。
お客様が「お茶をください」とか「水をください」とか、なるべく言われる前に(従業員には)やってください、と。
なぜなら、商談をされているときに「お茶を淹れますか、淹れませんか?」って話せない、だから(率先して)「お茶を淹れます」と。
お客様が仕事をされているときには、答えなきゃいけないことを尋ねないでください、と。
あと、なるべくあまりお部屋で言えないことはメモ書きして。
・・・この本を書かれたきっかけは?
出版社の人から(書きませんか、と言われました)。
(書いて)いいのかな、でもいい機会だなあって。
ところが、だんだん、書かなくてもいいようなことを書かなきゃいけなくなって。
(書かないと)つじつまが合わないんですよ。
今まで、離婚経験があるとかそういう話を、お客さんにしてなかったのに、聞かれれば言いましたよ。
隠したわけではないんですけど、書かないと・・・。
・・・この本を読んで、私が思ったのは、女将さん、タイミングをつかむのがとてもうまいかただな、と。
若いときはこうやりたい、とか、ああやりたい、とか、思っているとおりにすることがいいことだと思ったんですけど、商売を始めてだんだん、「流れ」みたいなものがあったときに、ちょっと流されてみよう、と。
ただ流されるのじゃなくて、頃合いをみる、というか、「待つ」ということですね。
ちょっと待って、流されているうちにいい場所・いい機会がある、変に泳いで、泳ぐのもいいんですけど、30代過ぎてからくらいですね、商売を始めると「楽」しよう、というのとまた違って、「よく今の状態をみる」、自分の経済的なもの、とかです。
一番最初に小さなマンションを買った理由というのが(今のままでは)相手に対して、何も保証がないな、と。
入谷から通って、毎日きつかったので、じゃあ近くに(マンションを)、ということで。
これでやっと、何かステップを踏むときに保証ができたなあと思って。
それでなるべく早い段階で、ちょっと借入をしたんですけれども、全部(ローンを)払ってしまって、そこからですかね。
今やらなきゃいけないこと、人生の中で優先順位っていうのは自分ではっきり持っていないと、チャンスが来ても、何か「玉」が来たらみんな、じゃなくて、自分は今これが大切、2番目がこれ、これが3番目、と。
自分の望みはあるけど、最大の優先順位っていうのはこれ・・・。
それを念頭に置いて商売したり、暮らしていったり、それが一番何か結果的に幸せに・・・。
不動産を探していた時期もあるし、次のことを考えて。
なんとなくピタッとくるのがなくて、ちょっとしばらくこれでやめておこうと。
ここと、向こう(はなれ)と自宅が近くにあるので、もう1軒ぐらい(はとは思いますが)。
オリンピックがあるので値段が高いし。
じゃオリンピックが終わってからゆっくりと、2年後、3年後ですかね。
そういうときにチャンスがあれば。
今までは全力投球することを思ったんですけど、この辺で、100年続く老舗のかたたちとおつきあいするようになって、「つなぐ」っていうことももっと大変かもしれないと思って。
最終的には「つなげる」っていうことで親方と話して、つながるための努力ですね。
自分のめいっぱいやることも必要なんですけど、徐々に、みたいな。
・・・今回の映画「祈りの幕が下りる時」の撮影がありましたこと、以前書かせていただきました。
映画を観たのですが、きく家さんのシーンは見落としました。最後のところですよね?
最後ですね。(加賀恭一郎が日本橋署を離れるにあたり、挨拶廻りをするところで)うちへ来て、あ、休みだった、っていう、私もまだ観ていないんですけど。
いろいろなパターンを撮っていって、玄関の明かりをつけといてください、というのもありました。
結局は玄関が閉まっていた、というシーンですね。
・・・8月2日に発売される映画「祈りの幕が下りる時」のDVDで確認します。
女将さん、本日はお忙しいところ、貴重なお話の数々、本当にありがとうございました。
人形町 きく家
日本橋人形町1ー5-10
03-3664-9032
営業時間 17:30~22:30
定休日 日曜日・祝祭日・年末年始
コース料金 個室おまかせコース 16,000円~
カウンター席・おまかせコース 8,000円~
※ 別途サービス料10%、個室につきましては個室料がかかります。
※ お電話にてご予約をお願いします。
※ 日本橋人形町1-5-2に和食「きく家 はなれ」もございま