『雪松図屏風(ゆきまつずびょうぶ)』
国宝である。作は円山応挙。
六曲一双の屏風は、日本橋室町2丁目の三井本館7階、三井記念美術館に収蔵されており、毎年新春に公開されるのが恒例となっている。
右隻に力強い幹を持つ老松、左隻の若木。
枝にしなるほどの雪が積もっている。
長寿・吉祥を表す松に、雪の白さがまぶしく映る。
金泥の空気の中に、昇りゆく朝の光が清々しい。
雪を描かず雪を描くという技法。
和紙の白地をそのまま塗り残して、やわらかに積もった雪を生み出している。
つい、引き込まれてしまう。
新春の行事も、小正月で区切りがつく。
孫の帰省。箱根駅伝。七福神めぐり。・・・。
意外にも、時が飛ぶように過ぎる。
そうした睦月の行事の中に、「国宝を見る」という行動を加えている。
今年は、三井記念美術館へ。
私は、35年ほど前に、国鉄で車掌として勤務していた。
宮城県の松島湾に沿って走る、仙石線。
冬の凍える始発の車窓から、雪に包まれた松島の風景を見ていた。
歌に詠まれた、雪の松島である。
島々を形づくる樹木や岩に積もる雪の、墨絵の世界。
まだ乗客はひとりも乗っていない。
この風景、ひとり占め。
体の芯まで凍える寒さの中にいても、ふるえながら笑みが浮かんでくる感動だった。
今、線路は、震災後に海辺から離れて敷設されている。
雪松図屏風は、勤務しながら新年を迎えていた、20代の自分を思い出させてくれた。