『ギフト、そして自分も楽しむ』をアレゴリーとして取材します、rosemary seaです。
人形町 きく家(きくや)さんは、日本橋人形町の大観音寺(おおがんのんじ)から日本橋小学校へ抜ける小路にたたずむ小粋な日本料理店です。
前回のご紹介記事はこちら
⇒ /archive/2017/12/post-4792.html
ここに1冊の本があります。
中央区立日本橋図書館で借りてきたものです。
題名は『人形町酒亭きく家繁盛記』 。草思社:刊。
著者は志賀キヱ・真二さん、きく家さんの女将と親方、ご夫婦です。
この本が出されたのは平成13年(2001年)ですから、今から17年前、ということになります。
読んでみました。読み返してみました。
きく家さんがどのように歩んできて、どのようにおもてなしをされていて、そしてお店を切り盛りされるにあたりどのように考えられておられるか、克明に綴られています。よく理解できました。
刊行されてから時は経っていますが、今のお話としても十分通用する内容でした。
書かれていることを少しご紹介します。
Ⅰ. きく家のお酒 きく家の肴
こちらの章ではきく家さんがお客様にお出しする数多の地酒、それとお料理の相性、お出しする順の選択から、それぞれのお酒についての解説まで、とても深く述べられています。
お酒をお料理とともにお出しするお店にとってはもちろん、お酒を飲まれる方全てにとても参考になるのではないでしょうか。
そのなかで1つご紹介。
お酒の取り揃えとお料理に合ったお酒をお出しすることに心血を注がれていますきく家さん。
お酒のための低温貯蔵庫を地下に2つお持ちとのこと。
なぜ2つなのか。それは温度と湿度を分けて貯蔵するため。
お酒それぞれに合わせて、ということです。
熟成で美味しくなるお酒、というのもあるそうです。
この他にも「きく家さんのこだわり」がいろいろご紹介されています。
Ⅱ. 元日生まれの月島育ち
女将さんの生い立ちについて書かれています。
女将さんは月島の鉄工所の三女として育ち、月島第二小学校、月島第二中学校で学び、高校卒業後、羽田で第一号の女性通関士としてご活躍されました。
23歳で一度結婚されましたが別れた後、お母さんと人形町に惣菜風のお料理をお出しする食堂を、共同ビルの地下に開きました。
昭和50年、現在のお店のそばです。
店名はきくや。女将の旧姓の「菊池さん」からきています。
昭和55年、今のお店の半分のところに移り、酒亭にかたちになったそうです。
平成9年にお隣まで含め増改築、今の店構えとなりました。
それから親方との出会い、お二人での切り盛りも描かれています。
お店の名前も きくや ⇒ 喜久家 ⇒ きく家 となっています。
Ⅲ. 人形町酒亭きく家繁盛記
こだわりは各お部屋の照明にもあります。ほとんど電球の自然光、間接照明。照度コントローラー付き。
お料理を美味しく見せることと場の雰囲気作りのためでしたが、意外にもドラマ撮影に対応できるというメリットも発生しました。
建て替え時に全室トイレをつけて各部屋のお客様が顔を合わせないようにすること、掘りごたつに換気口をつける、等、こだわりは限りがありません。
Ⅳ. きく家流のおもてなし
きく家さんは「商談のまとまる店」と云われています。
それは「美味しい食べ物・良いお酒・おもてなしする側の感受性」と語られています。
特に「感受性」に関しては、地位とか仕事の重みがわかることからスタートして自分を高めていく、という女将の言葉となっています。
お客様との会話の切り出し・接点については、地酒の地方色を利用しているそうです。
他に、
〇 失敗は早めに対処する
〇 伝票にいろいろ記入 例:聞き及んだ顧客名 お酒をたくさん飲まれるかた⇒◎ 全くいらないかた⇒× ほんの少しだけでいいかた⇒△
他、控えている運転手さんへの帰り車の手配を、お食事最後の果物をお出しする前にお呼びするか、後にするか、など、伝票に書いて従業員に徹底するそうです。
その他、背広掛けをお客様側の配慮で待っていただいたことの教訓、傘取り違え事件の対処、など。
未収金のお話などもされています。
正直ここまでお話しするのか、と驚きました。
女将の志賀キヱさんにお話を伺いました。
・・・冷蔵庫2つのことについて詳しくお教えいただけますか?
元々、冷蔵庫は1つめはあまり低温ではないんですけど、非常に大きい2つめと比べ、長期熟成に適した湿度と環境がありました。
特に壁がぴったりなっていなくて、なんとなく古い、カビが生えているようなところでした。
ところがそこを酒蔵(さかぐら)さんにみてもらったら、とても良い貯蔵庫だって言われて、確かに良い貯蔵庫だったんですけど、もうひとつつくりました。
2つめの冷蔵庫は温度調節ができるように、なるべく低温にしてあって、で、両方持っていたんですけど、この辺の地下って水が出るようなところなものですから、それが非常に良かったんですけど、今度(1つめの冷蔵庫の)空調があまり効かなくなってからは、それが少し欠点になって、それで最終的にはエアコンが壊れたんですよ。
それを修理して使うかっていうのを考えて、これはこれでいわゆる常温のものとして残しておくけど、空調を入れないということで、全部新しい2つめの方に(お酒を)移したんです。
移したんですけど、広いものですから、冷えるところと意外と冷えないところというか、温度差が少しあるなっていうのは気付いて。
で、どちらかというとドアに近いところに比較的長く持つもの、全面から前の方は低温のものにしてあります。
今は、苦肉の策で。
お酒に関してはもう少し掘り下げて、こういう銘柄を置くというよりは、実際(酒蔵の)タンクを選んだり、それからうち用に造ってもらったり。
だからラベルは同じでも、(味は違う)。
よくお客様は、ここで見たようなものを買ったんだけど違うって言うのは、タンク違いとか、同じようでもちょっとお米(酒米の酒類)が違ったり、それとあまり書かない蔵もよくあるんですけど、どこか違えているんです、ラベルのどこかは。
それを読み込むまでは皆さんおやりにならないので。
ただ、うち用のタンクに詰めてもらっているので、あとは寝かしてもらっているので、1軒だけは。
他はうちで熟成しているので。
私もただ買ってきて売るっていうんだったら別に在庫はいらないんですけど、やっぱり味が少しづつ変わってくるので一番ぴったりしたところまで待つ、っていう作業をするので、そこが一般のお店とちょっと違うかもしれない。
それが面白いと思うか、我々の仕事としては責任を持ってこの銘柄を出したいのでそういうふうに寝かしたりなんかして、自分で飲んで、これちょっと若いなと思ったらちょっと寝かしといてあとで出す。
若干甘かったりすると、うちのお客さんにはちょっとこの甘さは嫌だから少し寝かして落ち着いてから出す、とか。
だからそのお酒を、いいお酒なんだけどより以上お客様に対して、あと蔵元さんがもしかしたらこういうふうに思って造っているけど、やはり対価が欲しいので造っているっていう作業になっているかもしれないので、それでうちで代わりに(熟成させて)やっている、っていうことなんです。
どちらかというとそこをポイントにして売っているんですけど、本当に良いお酒ってそこから育っていくので、その過程を多分想像してちょっと1か月2か月待って、それで、ああまだだなあと思ってたらもうちょっと、っていう感じですかね。
・・・お酒の種類は?
100種類ぐらいは地下にあります。
自分で若干のリストは作ってありますけど、移動するので、一応頭の中に入れておいて、あれって言われたら、確かあったなみたいな。
その代わり、これが地下の貯蔵の部屋だとしますと、大きく分けて北海道からずーっと九州まで、県ごとに並んでいるので、おおまかなのは。
・・・お客様にお酒が合わなかった場合は?
合わなかったらそれをすぐに下げます。
こういうタイプが好きだな、今の出しているのが嫌いってことはいろんな条件があって、例えばキレはあるけどアルコール度数が少し高いのが嫌だ、とか、もしかしたらもっと醸造アルコールを入れたさらっとしたものが好きなのかもしれないので、純米吟醸より大吟醸の方が好きなかたもいらっしゃる、それから、今の料理に合わなかったり、生がだめだとか、生酒(なまざけ)がだめだとか。逆に好きだとか。
そういうのを少し対応していくんですけど。
今日なんかも、全然知らない人(お客様)は1組だけ。
全く初めてなんだけど、誰かに紹介された、とか。
「人形町は初めてですか?」みたいなことから少し少し聞きだして。
昔は役員名簿っていうのがありましたよね。
あれに全部出身地が出ているんですよ。
何か困ったときには多少参考になったんですけど、今はもう出ないので。
例えばおみやげが、なんで何々県なの、っていうことはこの人はもしかしたら富山から来ているので富山のおみやげ。
この前もおみやげが四万十川、接しているので、じゃ高知、とか、そういうおみやげなんかも見せてもらって、かするか、よくそのお酒は知っているからいらないよ、っていう場合も逆にあるんですけど。
あとは市販してあまりないもの、数が少ないもの、そういうのは多分これはお客さん知らないなって思ったら、この蔵は知ってるけどこの銘柄は知っているけど、これに関しては知らないっていう、多分こっちは知っているけどこっちは知らないなっていうのが。
例えば同じ福井県でも「黒龍(こくりゅう:黒龍酒造のお酒)」は知っていても「越前岬(えちぜんみさき:田邊酒造のお酒)」は知らないなって。これ、すごい近いんですけどね。
そうすると、では越前岬をお出ししましょうか?とか。
・・・例えば私が以前、熊本の「香露(こうろ)」を好みます、と言ったら。
香露さんの大吟醸が好きなのか、純米吟醸が好きなのか、香露さんは基本的に「9号(きょうかい9号)」という酵母なので、それに合わせて(お酒をお出しします。)
今、一番手に入りにくいのが大吟醸なので。
人数が多ければ大吟醸1本出しておいて、それから次にいこうかな、って。
おひたしだと1合だけっていう可能性もあるじゃないですか。
そうなると純米吟醸あたりがいいかな、と。
・・・大吟醸を出して、採算はとれますか?
いっぱい飲むんだったら、大吟醸は出さない方がいいかなっていう。
例えば大勢で1本大吟醸を飲むならいいんですけど、カウンターでお一人とか、二人で来て大吟醸1本空けて、もちろんそれは構わないんですけど、次に残ったものをその日かあとに出そうっていう計算をしなきゃいけないので。
(右の画像はロズマリの職場に掲げられています、きく家さんのカレンダーです。)
・・・酒米の田植えや稲刈りにも行かれるそうですね。
田植えって酒米(さかまい)と飯米(はんまい)ではね、1か月違うんですよ。
(酒米の田植えは)このぐらいの時期になるんでしょうね、5月の後半、早くてゴールデンウイーク。
みんな人手が欲しいので、ゴールデンウイークにやるっていう酒蔵さんもありますけど。
田植えにも行きました。刈り取りもしましたし。
あと、試験田(しけんでん)って言って、ここの土地に何が合うかって、お米の種類ですね。
私は神亀(しんかめ:埼玉県蓮田市の酒蔵:ここで造られる「ひこ孫」というお酒を、きく家さんではメインでお出ししています。)さんの千葉県成田市でやる時に、これが田んぼだとすると、これの3分の1くらいの田んぼが向こう側にあるんですよ。
そこに2列づつ、ここで「五百万石(ごひゃくまんごく:酒米の主要品種で、山田錦に次いで第2位の生産量、割合では日本全体の約4分の1)」をやったんですけど、10種類ぐらいづつ、で、この土地に合うかどうかって。
日照時間とか温度にこの酒米が合うかどうかって。
こっちはもう五百万石は確かに合っているのはわかったので、1枚(の畑)だけやって、で、そっちやったら確かに枯れているんですよ。
だから日照時間が足りなかった。あとは寒暖の差が(必要です)。
山の上じゃないとね、中腹じゃないとだめなんです。だから枯れちゃうんだ、と思って。
なるべく現場を見るようにしていますけど。
酒蔵さんの、なるべく新しいところを1年に1軒か2軒(拝見する)、今でも、はい。
・・・インタビューご披露の途中ですが、次回に続きます。
人形町 きく家
日本橋人形町1ー5-10
03-3664-9032
営業時間 17:30~22:30
定休日 日曜日・祝祭日・年末年始
コース料金 個室おまかせコース 16,000円~
カウンター席・おまかせコース 8,000円~
※ 別途サービス料10%、個室につきましては個室料がかかります。
※ お電話にてご予約をお願いします。
※ 日本橋人形町1-5-2に和食「きく家 はなれ」もございます