[巻渕彰/写楽さい]
2010年7月23日 08:30
八重洲通りを北へ行ったところに「養珠院(ようじゅいん)通り」がある(写真上左)。八重洲一丁目の外堀通りから日本橋三丁目の昭和通り手前までの東西を結んでいる。道路標識も少ないので見過ごしがちの道である。その由来は「於満稲荷神社」にある(写真上右)。家康の側室・お万の方を祀ってあり、院号が養珠院であることから、平成16年(2004)に中央区道路愛称が付けられた。
お万の方(1577-1653)は家康の十男である紀伊徳川家開祖・徳川頼宣(よりのぶ)と十一男の水戸徳川家開祖・徳川頼房(よりふさ)の生母である。尾張徳川家とともに御三家となった。同神社の由緒書によると、「養珠院は代々日蓮宗を信仰し、ここ日本橋あたりで神仏寄進の物資調達をしたそうで、その遺徳に恩義を寄せた商人たちがこの稲荷社を建立した」という。
江戸期の古地図では、この社は上槙町(かみまきちょう=現八重洲一丁目)に存在していたことが分かる。草分名主の檜物町(ひものちょう)の南隣で元祖下町の一帯。現在の於満稲荷はビル脇に再建されていて、人ひとりがやっと入れる狭いところであるが、旧江戸城(皇居)方面を向いているのは往時を偲ぶかのようだ。
このお万の方とゆかりの寺が渋谷区千駄ヶ谷にある。日蓮宗の法運山仙寿院で、赤坂の紀伊徳川屋敷にあったものを正保元年(1644)に現在地に移転して開山したもの。同院の沿革によると、お万の方の発願により紀伊徳川家、伊予西条松平家の江戸での菩提寺祈願所として10万石の寺格だったという。壮大な堂宇と庭園で、『江戸名所図会』には〈新日暮里(しんひぐらしのさと)〉として、「谷中日暮里に似てすこぶる美観たり、弥生のころ爛漫たる花の盛りには大いに群衆せり」とある。
ここは何と、墓地の真下を人と車が通っている。昭和39年(1964)の東京オリンピック道路拡張工事によって墓地が切り取られる計画であったが、墓地をそのまま生かすためにその下部を掘り下げて切り通しのトンネルにして、その上に改葬したそうだ。このトンネルは「千駄ヶ谷トンネル」で、"心霊スポット"ともささやかれている(写真下左)。今の本堂(写真下右)は昭和40年(1965)に再建されたもので、その屋根には由緒の象徴である徳川葵の御紋が輝いていた。
[巻渕彰/写楽さい]
2010年7月10日 20:55
7月10日(土)、中央区観光協会主催「まち歩きツアー2010」がいよいよ始まった。文化コースの幕開けは「『新参者』の舞台・人形町コース」。TBS系列テレビドラマ『新参者』(2010/4-6放送)で登場した日本橋人形町商店街をめぐり、ロケの場所や下町情緒が漂う町並みを探訪する。コース案内は中央区のボランティアガイド「中央区文化財サポーター協会」が実施した。この日は、梅雨時ながら束の間の晴れで気温は30℃、日差しも強かったが、緑陰のそよ風は暑さを和らげてくれる。
定刻の午後2時、抽選で選ばれた参加者15人は集合地の水天宮社務所前から出発する。行列をなす名物の人形焼き店を横目に、甘酒横丁へ歩を進めた。「たい焼き店」「和菓子店」「煎餅店」など、ドラマの舞台となった店舗が軒をならべる中心地だ。テレビの影響か、相変わらず人出は多い。「この店があの場面だったのか」と、参加者から納得の会話が聞こえる。旧浜町川(浜町河岸)の緑道を渡り、浜町公園の「清正公寺」を参詣。明治座を眺めつつ、清洲橋通りを「久松警察署」へ。ドラマでは「日本橋警察署」の設定となった場所である。
ここから南に戻り、「末広神社」(写真上左)へ寄る。この辺りは江戸前期に元吉原があったところ。やがて歩くと、戦災で焼け残った家並みが懐かしい一帯となる。人形町通りでは歌舞伎で知られる「玄冶店跡」、寄席「人形町末広跡」、老舗の「刃物店」を見てまわる。「大観音寺」からはしっとりとした路地へ。手押しポンプの井戸水につぎつぎと手を濯ぐ参加者の姿があった(写真上右)。料亭が軒を連ねる路地は人形町ならでは粋な風情だ(写真下左)。「西郷隆盛屋敷跡」を経て、「小網神社」へ。中央区民文化財となっている社殿には歴史が刻まれている(写真下右)。最終地は「谷崎潤一郎生誕地跡」、中央区が誇る文豪の足跡を顧みる。ここで約2時間のまち歩きを終えた。
実施後の参加者の感想は、「楽しくて、あっという間の2時間だった」「人形町で毎日買い物しているが、この地域のことがよく分かり、勉強になった」「分かりやすい説明が良かった」「谷崎潤一郎のことがよく理解できた」などで、全体的には「楽しく、面白かった」との声が寄せられる。"新参者"も"古参"も、人形町歴史散歩を楽しんだ一日で、全員が「まち歩きツアーに、また参加したい」と、うれしい反響だった。
◇11月まで開催される、中央区観光協会主催「まち歩きツアー2010」の詳しい情報は、中央区観光協会HPをご覧ください。
http://www.chuo-kanko.or.jp/machiaruki/index.html?itemid=5867