こんにちは。新人特派員のHanes(ハネス)です
新緑が眩しい季節となり、自然と歩く時間が増えてきた今日この頃...
やはり、「期間限定の展示を見に行く」、「評判のスイーツを食べに行く」といった
何らかの目的があると散歩のモチベーションが上がりますよね
今回は、築地・新富エリアを舞台にした三島由紀夫の短編小説『橋づくし』に基づく
ワクワク、ドキドキする散歩ルートをご紹介します
まず、その小説の内容を簡単にご説明しますと、陰暦8月15日の満月の夜に
4人の女性が7本の橋を渡り、願掛けをしようとするというものです。
しかし、ただ橋を渡って願い事をするだけではありません!
・願い事をお互いに言ってはならない
・家を出てから、7本の橋を渡りきるまで口をきいてはいけない
・知っている人から話しかけられてはいけない
・同じ道を二度歩いてはいけない
といったルールがあり、それらに加え、橋を渡る前と後には、
手を合わせてお祈り(合計14回)をしなければなりません。
大したことのないルールのようですが、守るのが意外と難しいのです
私は興奮と不安が入り混じる中、それらのルールを頭に叩き込み、
現代版『橋づくし』と称した願掛けを早朝に決行することにしました
まず、第一、第二の橋である三吉橋(橋が2本架かっているため2カウント)へ向かい、
橋の袂にある『橋づくし』に言及した碑をチェックします。
昔、川があった場所も一目で把握できますね!
そして、この小説が収録されている本を片手にいよいよスタート
朝日に照らされた中央区役所方面を臨み、小説の該当箇所を読みます。
「橋の欄干は低く、その三叉の中央の三角形を形づくる三つの角に、おのおの古雅な鈴蘭燈が立ってゐる。鈴蘭燈のひとつひとつが、四つの燈火を吊るしてゐるのに、その凡てが灯つてゐるわけではない。月に照らされて灯つてゐない灯の丸い磨硝子の覆ひが、まつ白に見える。」(p. 320)
生憎月ではなく太陽が出ている時間帯でしたが、鈴蘭燈と思わしきものを発見
小説に登場するものと同じものが見られるなんて、物語の世界に入り込んだようでなんだか不思議な気分
思わず歓喜の声をあげそうになりましたが、ぐっとこらえて次の橋を目指します
第三の橋は、築地橋!
願掛けを終えて小説を読み返すと、
「ここに来て気づいたのだが、都心の殺風景なかういふ橋にも、袂には忠實に柳が植ゑてある。ふだん車で通つてゐては気のつかないかうした孤獨な柳が、コンクリートのあひだのわづかな地面から生ひ立つて、忠實に川風をうけてその葉を揺らしてゐる。深夜になると、まはりの騒がしい建物が死んで、柳だけが生きてゐた。」(p. 322)
とあります。
川は埋め立てられてしまいましたが、
なんと、今でも窮屈そうに柳が生えているではありませんか
「もしや...これは小説に登場するあの柳なのでは?」と淡い期待を抱きつつ、
第四の橋である入船橋へ歩を進め、願い事を済ませます。
そして、第五の橋に向かう途中、小説には、
「やがて左方に、川むかうの聖路加病院の壮大な建築が見えてくる。それは半透明の月かげに照らされて、鬱然と見えた。頂の巨きな金の十字架があかあかと照らし出され、これに侍するやうに、航空標識の赤い燈が、點々と屋上と空とを劃して明滅してゐるのである。病院の背後の會堂は灯を消してゐるが、ゴシック風の薔薇窓の輪郭が、高く明瞭に見える。病院の窓々には、あちこちにまだ暗い燈火をかかげてゐる。」(p. 325)
という描写があります。
小説同様、薔薇窓を横目に見ながら先を急ぎます。
この時ちょうど早朝パトロール中のお巡りさんを見かけ、
「小説同様に声をかけられたらどうしよう」とドキドキしてしまいました!
それでも無事に無言のまま築地川公園にある暁橋に到着。
これまでの橋と異なり、橋を渡っているという実感はありませんが、
後ろ側から見ると、橋らしさが感じられます
公園内を移動し、第六の堺橋の親柱を発見
ここまできたら何としてでも無事に第七の橋を渡りきりたいという気持ちが強くなり、
小走りで向かった備前橋
小説にある
「三味線の箱みたいな形のコンクリートの柱に、備前橋と誌され、その柱の頂に乏しい灯がついてゐる」(p. 329)
を思い出し、実際の橋と見比べたうえで、最後の願い事をしました。
普段歩きなれた道ですが、現代版『橋づくし』をしてみたところ、
むしろ新鮮で、これまであまり意識することのなかった何十年と変わらない風景に気づくことができました
温故知新という四字熟語がぴったりですね!
その一方、高いビルが増えたことで、見えなくなってしまった風景もあります。
さらに数十年過ぎた頃、小説に登場する満佐子や今の私と同じくらいの年齢の女子が、
原作の時代と2020年のオリンピック前の築地・新富エリアに思いを馳せながら、
新たな時代の『橋づくし』に挑むのかもしれません
その頃までに、このエリアはどのような変貌を遂げているのでしょうか...
築地・新富エリアで散歩をする際は、そのような時の流れを思い出しつつ、
ワクワク、ドキドキに満ちた体験をしてみてはいかがでしょうか?
【参考文献】(本記事内のページはこの文献に基づいています。)
三島由紀夫(1973)『三島由紀夫全集第十巻』新潮社.
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滅紫さん:「三島由紀夫『橋づくし』を歩く―三吉橋から備前橋まで―」
CAMさん:「橋づくしツアー」(1)、「橋づくしツアー」(2)