[小江戸板橋]
2012年9月 5日 10:00
『画竜点睛』という言葉があります。
描いた龍に、最後に瞳を書き加えると、たちまち絵から飛び出して天にも駆け登る。
最後の大事な仕上げ。
東京駅の赤レンガ駅舎。
南北に大きく翼を広げたようにも見えるその建物のフォルム。
南北の支えになるドームに、保存・復元工事中には外されていた時計が、はめ込まれました。
なんとなく物足りなく見えた空間に、時計が加わると、建物が目を開いたように感じられます。
8月22日に、時計は設置されたとの事。
直径約1.4メートル。
大正3年の開業当時と同じ、ローマ数字の文字盤。
いよいよ目を覚ましました。
グランドオープンは、10月1日に行われます。
休館中だった東京ステーションギャラリーも、1日にオープンします。
私は、むき出しになったレンガ壁の展示室が好きで、駅の建物の中という足の良さと相まって、よく展示会を見に行っており、とても楽しみです。
東京観光のガイドブックや、ツアーのコースとして、すでに掲載されていました。
ドーム内の天井部分は、板で蓋がしてあって、まだ見えません。
その内側に、どんな装飾品やレリーフが隠れているのでしょうか。
日本の鉄道の起点にふさわしい、重厚で華やかな空間を想像します。
しばらく見ないうちに、細部の覆いが次々にはがされ、全体像が現れてきています。
工事の途中経過を見ておきたい人は、今のうちですよ。
[小江戸板橋]
2012年8月22日 08:30
夏の帰省の季節が過ぎました。
草むらに、虫の音を聞くこともあるのですが、
いまだに燃えるような陽射し、照り返しは、どうにかなったかの様。
熱をたっぷり含んだ風が止まると、寝ていても汗がじっとりと滲んできます。
こうした寝苦しい夜は、怪談噺と相場が決まっています。
昔、映画館には、上映のシーンを描いた看板が掲げられていました。
毒々しく油絵具を盛った怪談の絵は、薄明りの中で急に現れると、ゾクッとしました。
その上映期間中は、意識して映画館の前を通らないようにしたものです。
数ある怪談噺の中で、堂々トップに君臨するのは、『東海道四谷怪談』だと思います。
四世鶴屋南北の作による歌舞伎狂言。
評判を呼んで、回を重ねるごとに、様々な趣向が取り入れられます。
戸板返し、提灯抜け、毒を盛られて・・・、思い浮かべるだけでも怖いこと。
三遊亭圓朝の落語をはじめとする演芸や、数々の映画やテレビドラマに取り上げられ、進化をしてきました。
その度に、凄みを増したり、可愛くなったり、千変万化。
主人公のお岩様を祀った神社が、中央区にもあるんです。
新川2丁目の田宮於岩稲荷神社。
四谷左門町の御家人、田宮家の屋敷社が焼失し、明治12年に移転してきたといいます。
区民有形民族文化財に指定されているお百度石は、初代市川右団次が興行を記念して奉納したもの。
新富座にもほど近く、花柳界や歌舞伎関係者に信仰され、賑わったといいます。
噺は、時代を超えた当たり狂言『忠臣蔵』のスピンオフ、夏バージョン外伝。
表の赤穂義士に比べ、同じ浪士の伊右衛門の徹底した裏の悪党ぶりは、もし役者だったら、演じて気持ちがいいだろうな。
悪を出せば出すほど、陰影が濃くなる、痛快なほどのキャラクター設定。
お岩様を、全国区のお岩様に押し上げてしまった、不義の夫、伊右衛門。
おっ。心の中の、暗い部分が共鳴している。