ケアリイ

台風水害から守られた中央区

全国各地に河川の氾濫をもたらした台風19号。まだ過去形では無く、15日現在でも救援を待つ人たちが多いようです。被害を受けられた皆様には心よりお見舞い申し上げます。

 

中央区をはじめ東都一帯も度重なる水害に悩まされてきた地域ですが、重層的な治水設備や、治水に関わる人たちの努力の賜物で今回は水害的にはほぼ無傷で済みました。大きな感謝を込めて、私たちを守ってくれた治水設備についていくつかご紹介してみます。

もしも荒川が氾濫していたら

まずは、「こうなっていたかもしれない」という動画をご覧ください。

 

この動画は、国交省関東地方整備局:荒川下流河川事務所が制作した『フィクションドキュメンタリー「荒川氾濫」H29.3改訂版』というものです。台風によって荒川の上流:秩父のあたりに降った大雨が原因で、岩淵水門(よりもほんの少し上流、京浜東北線の鉄橋あたりで荒川が氾濫した場合の実写版シミュレーションになっています。中央区・千代田区等のオフィス街が全ての機能を失うという恐ろしい結果が描かれています。。。

現在の隅田川は、岩淵水門(東京都北区)のところで荒川から分岐するようになっています。

重層的に守られた中央区

荒川は「荒ぶる川」が名前の由来と言われるよう、昔から東都一帯を水害で苦しめてきました。逆に、東都の治水は江戸時代の利根川東遷に始まる長い長い歴史を持っています。

それらの中で、以下、隅田川を守ってくれた設備をいくつかご紹介してみます。とても簡単な紹介なので、興味を持たれた方は是非リンク先も参照してみてください。

 

(1)荒川放水路(現在の荒川)

ご存じのように、昔は隅田川が荒川上流と直接つながっていました。秩父の上流で降った雨はそのまま隅田川に流れ込んでいたのです。それが、大正2年から17年もの歳月を費やした大工事によって完成した荒川放水路と、それを制御する岩淵水門のおかげで、荒川を流れてきた水の大半が、隅田川でなく、放水路のほうに流れるようになったのです。

荒川放水路の変遷(荒川下流河川事務所)

 

(2)秩父4ダム

荒川の上流は秩父の山中ですが、ここにいくつものダムがあります。秩父4ダムと呼ばれる浦山ダム、二瀬ダム、滝沢ダム、合角ダムです。なかでも平成になってから稼働開始した浦山・滝沢の両ダムを合わせた貯水量はなんと1億m3超!

地下神殿として有名な首都圏外郭放水路(こちらも中川はじめ中小河川の氾濫を防ぎました)の巨大な地下でも、貯水量は67万m3(それはそれで途方もない量ですが)なので、秩父のダムの頼もしさは限りないですね!

荒川ダム総合管理所

地下神殿4年ぶりフル稼働(朝日新聞)

 

(3)荒川第一調節池、彩湖

今回の台風で20年ぶりに彩湖が稼働しました。彩湖の貯水量は1,060万m3。第一調節池全体では3,900万m3もあります。現在、第2調節池~第5調節池も建設中・計画中とのこと。これまたとても頼もしい味方です。

調節池(荒川上流河川事務所)

首都圏の大洪水を、彩湖や渡良瀬遊水地が防いだ可能性(HUFFPOST)

荒川全体の施設(荒川上流河川事務所)

 

(4)隅田川沿岸の水門たち

中央区・江東区などには多くの水門があり、東京都港湾局と江東治水事務所が分担して管理しています。水門の働きからすると「隅田川を守る」というよりは「隅田川から人々を守る」ことになるのかもしれないですが、とにかく、台風の当日にはこれらの水門が続々と閉鎖されてガッチリと守りを固めてくれました。

 

水門 「閉鎖情報」(江東治水事務所のメルマガから)

台風第19号の影響により10月12日14時09分現在、次の5水門を閉鎖しました。
新小名木川水門、竪川水門、大島川水門、住吉水門、月島川水門。

台風第19号の影響により10月12日15時00分現在、次の5水門を閉鎖しました。
上平井水門、今井水門、新川東水門、源森川水門、内川水門

せっかく守ってくれたのに

隅田川・荒川の重層的な設備と、それに携わる人たちの努力によって中央区は守られました。でも、「中央区はじめ、都心に降った雨」はどこに行ったのでしょう?

 

答は下水処理場(現在は水再生センターに改称)です。

 

下水の処理には「合流式」と「分流式」という方式があります。合流式は雨水と汚水(トイレを含む生活排水)を区別せずに処理する方式、分流式とは、雨水と汚水を別々に処理する方式です。

 

誠に残念なことに、都心の下水処理は「合流式」なので、今回のような台風や、今年7月の長雨などで水再生センターの処理能力を超えてしまうと、『下水がほぼそのまま隅田川に流されてしまう』のです。雨水だけではなく、汚水を含んだ下水なので、大腸菌だらけで臭いも酷い。今年の夏、そのせいで東京でのパラトライアスロンのスイム競技が中止になったりもしていましたよね。

 

歴史的に早い段階から下水処理が施された都会だからこそ、昔ながらの「合流式」で、最近になって下水処理が整った地域などでは「分流式」になっているというジレンマがあるようです。都心をいまから分流式にするには50年以上の工期と十兆円超の費用が必要だとも言われています。

なんとももどかしい話ですね。。。

 

合流式下水道の現状と課題について(東京都下水道局)

お台場の水質悪くスイム中止 パラトライアスロンW杯(日経新聞)

声を上げている人も(榎本茂港区議員:日刊ゲンダイインタビュー)

レインボーブリッジ下への汚水放流(上記議員による投稿)