象がいた百貨店

 かつて日本橋髙島屋の屋上で象が飼育されていたことはあまり知られていない。戦後の混乱からようやく平穏な暮らしの兆しが見え始めた昭和25年に、タイ国から生後8か月の子象が日本橋の髙島屋の屋上にやってきた。名前は髙子。

 汐留から銀座通りをトレーラーに乗った子象はパレードをして日本橋の髙島屋へ。その当時の沿道の人出は何と17万人もあったという。娯楽の少なかった時代に人々を楽しませようという思いで連れてきた「髙子ちゃん(愛称はたかちゃん)」は、一躍屋上の人気者になった。

 昭和29年に上野動物園に引き取られるまでの4年間、大勢の子供たちに「象のたかちゃんに乗った思い出」を提供して、上野に旅立つ時は、ゆっくりと店内の階段を降りていったという。その面影を残そうと、増築を担当した建築家「村野藤吾」は屋上に子象の髙子をモチーフにした塔屋を作ったと言われている。

 時代は移り、日本橋髙島屋S.C.新館がオープンした平成30年9月、その塔屋を優しく覆うように新館側から設置されたアーチ型のガラス大屋根は感動的である。重要文化財である本館に一切の負荷をかけず、象の髙子を守るように覆うガラス大屋根を見て、重要文化財の建物の保存と活用が、実に見事に行われていることに心を打たれた。

※写真は日本橋髙島屋の許可を得て撮影しております。