新春浅草歌舞伎『魚屋宗五郎』
新年1月20日(土)、新春浅草歌舞伎に行ってきます。お目当ては尾上松也主演の「魚屋宗五郎」。魚屋宗五郎の住所は芝ですし、上演される舞台は浅草公会堂ですので中央区に関係ありませんが、魚屋は日本橋の魚河岸に間接的に行くだろうというこじつけから今回ブログに取り上げることにしました。
尾上菊五郎が河竹黙阿弥に「酔っ払い」を主役に脚本を書いてくれないかと依頼して作成された演目です。ですから宗五郎の酔っ払う様が見どころです。主人公の宗五郎は、普段は理非をわきまえた人間ですが、酔うと荒れます。いわゆる酒乱です。正式な題は「新皿屋舗月雨暈(しんさらやしきつきのあまがさ)」(河竹黙阿弥作)ですが、通称の方が一般的です。
貧しい魚屋の宗五郎一家の暮らしは、妹のお蔦(つた)が大身の旗本、磯部主計(かずえ)之助(のすけ)の側室とされたことで豊かになりました。だが、お蔦は不義の疑いで主計之助に手打ちにされてしまいます。
腰元のおなぎから、妹のお蔦がお手討ちになったいきさつを聞いて、断酒している宗五郎は憐れな妹をおもい、酒を呑みたいと言い出します。酔いがまわってくると、殿様の理不尽さに、悲しさが次第に怒りに変わっていきます。酔いが増すとともに怒りが増長し、ついに正常な意識を失っていきます。この宗五郎の心情の変化が面白いところです。
酒の飲みっぷりも役者の見せ場ですが、酔って前後不覚になった状態は、いわば雑念がなくなった純粋無垢の精神状態で、そのとき妹をおもう兄の気持ちが純粋に表現される場面です。
名台詞:
(酒樽を片手に花道で見栄を切ります)
『さぁ 矢でも鉄砲でも持ってきやがれ やい 何だってお蔦を殺した 誰にことわって殺した 』。現代では表立って「矢とか鉄砲でも」と言ったら銃刀法違反で捕まってしまいますから言わないでしょう、切羽詰まった時に「矢でも鉄砲でも持って来やがれ」と心の中の言葉使うでしょうが、これは「魚屋宗五郎」の舞台から出たのですね。知りませんでした。
「皿屋敷」の趣向を盛り込んだお家騒動を背景に、描かれるのは町っ子の心意気ですね。