参加してきました! 京橋彩区 芸術文化講座
蒔絵万年筆の世界
こんにちは。「たけちゃん」です。
7月19日の夜に京橋1丁目のミュージアムタワー京橋で第43回芸術文化講座「蒔絵万年筆の世界」が開催されました。「芸術文化講座」はミュージアムタワー京橋と、2024年開業のTODA BUILDINGの2棟からなる街区「京橋彩区」のエリアマネジメント法人が「まちに開かれた芸術文化拠点」を目指して2019年10月から定期的に行っている講座です。特徴は、毎月多彩なゲストをお招きして、美術だけでなく、音楽、食、写真、伝統文化・芸能など広範囲にわたる講座を無料で聴講できることです。
今回の講師は、株式会社パイロットコーポレーション Namikiブランド推進室 室長の池田 明教さん(写真右)、モデレーターは中央FMの岩嵜いづみさん(写真左)です。
池田 明教さんが熱く語るパイロット誕生秘話
池田さんによると、パイロットコーポレーションの前身となる並木製作所が創立されたのは日本が欧米先進国を目標にして近代化を急ピッチで進めていた大正7年(1918年)。創業者は並木良輔氏、和田正雄氏という海外に大きな可能性を見出していた二人の船乗り。業界の先駆者、水先案内人になるという強い意思をこめて製品第一号のペンを「パイロット」と名付けそれが現在の社名にもなっています。
時代は少し遡って二人が学生時代。二人は共に東京商船学校(のちの東京海洋大学)出身。二人の出会いは、並木氏が機関⻑をしていた「有明丸」に和田氏が乗船した時。船上で半年余りの共同生活を通じて意気投合した二人は「いつか、日本から世界に誇れるものを送り出したい」と将来の夢について熱く語り合い、それ以後固い友情で結ばれる事になりました。
1906(明治39)年、船を降りた並木氏は母校の教授に迎えられました。教授職の傍ら、製図の指導に使う烏口(製図に使う特殊な筆記具)の先端の摩耗防止の研究から、それを応用した金ペン製造へと研究を進めていきました。その後、並木氏は教授を辞めて金ペンの研究開発に専念しますが、試行錯誤の連続で資金が底をつき、それを和田氏が工面してくれました。
1916(大正5)年2月9日午後3時。この時、歴史が動きます。ついに純国産の14金ペンが完成。これにより並木氏は本格的な万年筆会社の設立を決意。和田氏も行っていた事業をやめ、万年筆事業に一生をかける決心をしたということです。
とても素敵なエピソードで、食い入るように話を聴きました。
蒔絵万年筆の世界
池田さんによると、当初万年筆の軸材として一般的に使われていたのは「エボナイト」という硫黄とゴムを化合した素材。エボナイトは時間の経過とともに、紫外線や湿気による表面の変色・艶落ちという欠点がありました。その弱点を補うために、日本が世界に誇る優れた塗料である“漆”に着目し、「ラッカナイト」という表面処理技術を開発。ラッカナイトは世界で初めて、漆によりエボナイトの変色を防止する表面処理方法として1925(大正14)年に日本とアメリカで特許を取得しました。さらに、ラッカナイトの処理の上に日本古来の伝統工芸である「蒔絵」を施すことで、日本を代表する美麗な装飾の蒔絵万年筆の製造を開始することになったということです。
ところで「蒔絵」とは何でしょうか?
蒔絵のもとになったものは、奈良時代・正倉院の唐大刀(金銀鈿荘唐大刀/きんぎんでんかざりのからたち)のさやにある「末金鏤 (まっきんる)」だといわれています。「末金鏤」とは、漆の上に金粉や銀粉で絵柄を描き定着させ、その後漆を塗って木炭で研ぎ出したもの。現代に伝わっている「研出蒔絵(とぎだしまきえ)」とほぼ同じ技法でつくられています。その後、平安時代になるとさまざまな蒔絵の技法が誕生。貴族たちに好まれ、家具調度品として用いられるようになりました。さらには寺院の内装としても使われるようになり、描かれるものも松竹梅など日本風のものへと変化。京都・宇治にある平等院鳳凰堂や、岩手・平泉にある中尊寺金色堂などはその代表的なものといえます。
そんな「蒔絵」の伝統技術を惜しみなく万年筆の装飾に活用する。今の時代なら「万年筆2.0」とか言われるかもしれないイノベーションを100年も前に行っていたなんて、先人の知恵と努力には畏敬の念しかありません。
池田さんによると、現在でも1931年から脈々と続く「國光會(こっこうかい)」という蒔絵作家のグループがあり、蒔絵万年筆を、時には一人の職人さんが三か月以上を費やして完成させているとのこと。パイロット社が創立100周年を記念して製作した漆芸セット『七福神』という蒔絵万年筆は限定25セットの販売でしたが、瞬く間に完売したとのこと。その美しさはパイロット社の以下のリンクからご覧いただけます。
さ~て次回の芸術文化講座は...
第43回 文字の起こりと書道体験講座
日時:2023/08/23 (水) 18:30~20:00 (開場:18:00)
会場:ミュージアムタワー京橋 16階 Café16
登壇者:書家 玄筆会所属 謙慎書道会理事 篠﨑 芳陽 氏
皆さんが普段使っている「文字」ですが、様々な書体があることをご存じでしょうか。またパソコンや携帯電話の普及によって、文字を書く機会が少なくなっている昨今、筆を持つ機会はほとんどないことでしょう。この講座では文字の起こりや歴史に触れながら、実際に筆を持っていただき一つの作品を作ります。上手下手は全く関係ありません。筆を使って皆さんの好きな文字を自由に書いてみましょう。
詳細・お申込みはこちらから。
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