涼やかに能の世界に遊ぶ
東京・日本橋の〔アートアクアリウム美術館〕は間もなくオープン1周年を迎えます。金魚をモチーフとしたさまざまなアート作品を展示し、その大胆なデザインにいつも驚かされます。
特に暑いこの季節は、涼やかな水の音や優雅に泳ぐ金魚たちの姿に癒されのか、来館者も増えるようです。
しかし、私はそんな金魚アートよりもここの能楽に関する展示を楽しんでいます。まずは二階の〔老松エリア〕の鏡板です。江戸時代のものという歴史ある能舞台がラウンジ脇に設置され、伝統的なムードを楽しめます。ここで食事をしたりカクテルを傾けたりするのはとても優雅な気分になれます。
また、一階から二階へあがる階段の両脇には「能楽百番」という能楽の名シーンを描いた120枚の浮世絵が展示されています。明治・大正期に活躍した浮世絵師・月岡耕漁の作品です。とても全部を見渡せない迫力ですが、目に留まるいくつかの絵を見るだけでも、能楽の幽玄な雰囲気を味わうことができます。
もし能楽を鑑賞した経験のあるかたであれば、ご覧になった演目を探してみるのも一興ではないでしょうか。
二階に上がりつめたところには、ミニチュアの能面を一覧できるように額におさめた「能面八十四面」が掲げられています。これはかつて〔大阪能楽会館〕で収蔵されていたものです。同館が2017年に閉館する際に譲り受けられました。能楽で用いられる多彩な面を一度に眺められるのは嬉しいことです。一つひとつの表情を確かめながら能の世界を思い浮かべることができます。
一般には金魚目当てで訪れる方が多いでしょうが、実はこんな魅力もあるということで紹介させていただきました。訪問の際には是非じっくりとご鑑賞ください。