Hanes

ご存じですか?「こんぴら狗」の物語


こんにちは。アクティブ特派員のHanes(ハネス)です。
しばらく前に香川県琴平町の象頭山に鎮座する金刀比羅宮や銀座の資生堂パーラーが運営する「カフェ&レストラン 神椿」を訪れる機会がありました。
時間の都合上、登ったのは金刀比羅宮の境内の入口にあたる大門までの365段の石段でしたが、石段沿いに並ぶお店や大門から見た琴平町の風景はとてもよく記憶に残っています。

後日、先輩特派員の小猿さんと久しぶりにお会いする機会があり、日本橋図書館7F展示コーナーで12月21日(水)まで開催されている日本橋図書館展示「江戸の旅と暮らし展」のチラシをいただきました。
さらに後日、日本橋図書館のその展示に足を運んだところ、今井恭子『こんぴら狗』(くもん出版、2017年)という本が目に留まりました。
2018年の「第64回 青少年読書感想文全国コンクール」小学校高学年の部の課題図書に指定された児童書ではありますが、表表紙に描かれた可愛い犬と見覚えのある急な石段のイラストに惹かれ、金刀比羅宮の記憶が新しいうちに読んでみることに。

 ご存じですか?「こんぴら狗」の物語

伊勢町堀(西堀留川)跡の案内板


文政3年1月の江戸・瀬戸物町を舞台に始まるこの物語は、主人公である線香問屋の娘・弥生、彼女が拾い「睦月(ムツキ)」と名付けた犬を中心に展開します。
瀬戸物町はかつて日本橋に実在した地名ということで、現在のどのあたりか確認してみましょう。

日本橋小舟町の通り沿いに「伊勢町堀跡」の案内板があります。
そこに見られる「日本橋北内神田両国浜町明細絵図」には、瀬戸物町の名が複数見て取れます。

 ご存じですか?「こんぴら狗」の物語

伊勢町堀(西堀留川)跡の案内板、一部拡大


中央区立京橋図書館編集・発行の「郷土室だより」第162号によると、瀬戸物町は伊勢町堀の南岸、室町二・三丁目の東に位置する両側町。
現在の日本橋室町一・二丁目日本橋本町一・二丁目にあたります。

物語では、線香問屋の唯一の跡継ぎとなった主人公が体調を崩し、治癒祈願のために飼い犬を金毘羅さんに代参させることに。
その犬は「こんぴら狗(いぬ)」と呼ばれ、飼い主の名前や住所を記した木札と初穂料、道中の餌代などを入れた銭袋を首から下げ、旅人から旅人へと託されることとなります。
物語の大半では、こんぴら狗・ムツキの往復340里(約1340km)におよぶ旅路と道中での出会いや別れが描かれています。

驚いたことに、江戸時代には実際にこのような犬が存在し、信仰にあつかった当時の人々はこんぴら狗を世話することで自分にもご利益があると信じ、喜んで世話し、餌代を差し引かないこともあったとか。
物語では、ムツキと瀬戸物(陶磁器)問屋のご隠居が「お江戸日本橋、七つ発ち...」と歌にある通り、七つに日本橋を発ちました。

 ご存じですか?「こんぴら狗」の物語

金刀比羅宮の境内入口・大門まで続く階段にて振り返って撮影


物語とはいえ、興味深い江戸時代の文化・風習・情緒・暮らしぶりなどを知ることができ、大人でも十分に楽しめる一冊
例えば、犬の扱いや名前の付け方、庶民にとって伊勢参りと金毘羅参りがどのようなものであったのか、庶民が許された旅の種類と持参必須品、徳川幕府が多くの川に橋を架けることを禁じていた理由、旅先での宿泊先の制限や宿の種類、人や荷物を運搬する馬に履かせた草鞋について。
歴史がお好きな方にとっては特に気になることばかりではないでしょうか?

 ご存じですか?「こんぴら狗」の物語

金刀比羅宮の境内入口・大門


さらに、大川(今の隅田川)、大店、手代、番頭、馬子、おしきせなど、江戸時代の職業や地名なども出てくるため勉強になります。
現在の中央区にあたるエリアが登場するのは物語の最初と最後のみではありますが、賑わう日本橋通りや魚河岸の様子も描写されています。

犬とは言え、日本橋から香川県まで歩いて行くには相当体力が必要です。
飼い主のためにはるばる旅をし、急な石段を登って立派に参拝したこんぴら狗は、像やお守りのデザインとなり金刀比羅宮でも称えられています。

今は奇しくも読書の秋。『こんぴら狗』をはじめ、日本橋図書館展示「江戸の旅と暮らし展」で紹介されている本を手に取ってみませんか?
琴線に触れる一冊に出会えるかもしれません♪