【令和では信じられない江戸事情】冬の女性人口減少の謎
こんにちは。アクティブ特派員のHanes(ハネス)です。
先日、北嶋廣敏『江戸人のしきたり』(幻冬舎、2010年)を読んでいたところ、「冬場になると江戸時代の女性人口が減った理由」という興味深い小見出しが目に入りました。
令和の今では冬場に大幅に女性人口が減ることはありませんが、冬の話題なので取り上げてみたいと思います。
同書によると、享保6年(1721年)に幕府が初めて江戸の町人の人口調査を行ったそうです。
その後も調査は継続され、享保10年4月に行われた調査では町人総人口が462,102人、6月の調査では472,496人で、2ヶ月で10,394人増加を記録。
内訳を見てみると、男性が795人増加したのに対し、女性が9,599人も増加していたそうです!これは何事かと驚きますよね。
そこで南町奉行の大岡越前守が人口調査を行った町名主に聞き込みをすると、冬場には火災が多いので、女性たちを近くの田舎に避難させ、火災の発生件数の減る6月頃に江戸に呼び戻すしきたりがあったことが分かったそうです!
田代幸春「戸火事図巻」(パブリックドメイン)
確かに、現・中央区の大部分も甚大な被害を被った明暦の大火も旧暦1月18日~19日(3月2日~3日)と冬とも言える季節に発生しています。
国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている『武江年表』の索引を見てみると、371ページから始まる「火災(クワサイ)」の項にずらっと142の火災名が掲載されています。
それらの火災の月別発生率をデータ化した北嶋(2010)によると、11月が11.5%、12月が18.7%、1月が19.92%、2月が16.22%と、冬場の火災発生率だけで合計65.71%を占めるそうです。
その一方、5月は3.08%、女性たちが江戸に戻ってくる6月は1.03%と最低を記録。
乾燥する季節に火災が多かったのですね。
一方、総務省消防庁が発行している消防統計(火災統計)を見ると、令和の現在では火災原因が極めて多様化していることが分かります。
月別出火件数を見ても、特に冬に火災が多いわけではありません。
冬に多発する火災を避けて女性が田舎に避難したのは、木造の建物がひしめく江戸時代らしさの表れとも言えるのではないでしょうか。
江戸にも令和にも火災はありますが、このような違いがあるとは興味深い発見でした。