日本橋図書館で平和を考える午後
こんにちは、湊っ子ちゃんです。
先日、8月20日(火)に日本橋図書館にて開催された、「空襲を語る~昭和20年1月27日、銀座有楽町京橋に何が起こったか~」について、お伝えしたいと思います。
講師を務められるのは、かつて宝町と呼ばれていた、現在の京橋3丁目に、江戸時代のその昔より代々受け継がれる江戸箒屋、白木屋中村伝兵衛商店6代目店主 中村梅吉さんです。
梅吉さんは、中央区文化財サポーターをされており、また、戦災被害体験者として、多方面で語り部を担っています。
昭和20年(1945)1月27日、その日、梅吉さんは中学生でした。
「その日は曇りだったんです。雲が低くてね、たしか土曜日だったかな。空を見上げても、飛行機の姿は見えなかった。それだけ、空一面が雲で覆われていたんです。その日は学校だったんだけどね、どういうわけかなぁ、珍しく昼頃家に帰してくれたんだね」
梅吉さんの語り口は、粋でリズミカル。江戸っ子だなぁ!と思わせてくれます。
「あれは、午後1時30分頃だった」
銀座・有楽町・京橋一帯が、空襲されたのです。梅吉さんは、ご家族と一緒に、家の中にある半地下の防空壕に入って、空襲が過ぎるのを待ったそうです。爆弾が落ちるたび、ものすごい地響きと揺れが辺りを襲いました。梅吉さんのお家は被害を免れましたが、ほんの数百メートル先では、甚大な被害がもたらされていました。
「防空壕を出てみたら、ガラス戸の向こうが見えなかった。何しろ土埃がすごかった。それがおさまるのに30分はかかったね。ようやく外に出て、銀座のほうを見たら、煙が上がってたね。ちょうど服部時計店の辺りですよ。でもね、今みなさんが思っているような銀座じゃないのよ、もうどうしようもないくらい寂れてたんだから」
そして梅吉さんは、当時、いかに”物”が無かったかについてご説明されました。
「一番今の人たちに伝わりづらいのが、”物”が無いってことなの。もうなんにも無いんだから。食べるものさえ無い。あの頃、三越なんて、3階までしか営業してませんでしたよ。もう、売るものが無いんだから。店の人もほとんどいない。デパートで買い物をしようなんて考えすら、もうあの頃はなかったね」
梅吉さんのお店でも、店の外になけなしの品物を出して、入用の人に売ったといいます。それも、マッチは3本ずつ、ろうそくは1本ずつでした。そして、私が一番はっとさせられたのは、
「日本橋の麒麟も、三越のライオンも、どの橋の欄干もすべて、金属回収で持っていかれたのよ」
ということでした。
いまの私たちが、よく知っている、中央区を物語るものたちです。日本橋の麒麟も、三越のライオンも、中央区になくてはならないものです。そして橋の欄干といえば、水の都として、また、橋の美術館としての中央区が、一番誇っているものです。
そういったものたちまで、例外ではなく戦争という名のもと、その価値をないがしろにされてしまった時代だったのです。それを思うと、今がどれだけ平和なのかを、改めて教えられた気がしました。
しかし、日本橋の麒麟と三越のライオンは、回収されはしたものの、幸運にも難を逃れ、その姿をとどめたのです。やはり、人々に愛されるシンボルとして、何か不思議な力を持っていたのかもしれません。
そして、梅吉さんは、もし戦争をあと数ヶ月早く終わらせていれば、助かった人の数は知れないと惜しまれました。戦争末期が、どれだけ悲惨なものだったか、それは、その場に生きた人の目に、強烈に残っているのです。
「私らは、血の中に流れているんだ。ぜったいに、戦争なんて、しちゃいけない」
そして、梅吉さんは、涙をこらえ話されました。梅吉さんが”見た”悲惨な光景の話でした。空襲のすさまじさと、声もなく犠牲になった人々の姿でした。会場にいる誰もが、息をのみ言葉を失いました・・・。
さいごに梅吉さんは、ご自身の印象深いエピソードを語ってくださいました。
「あのね、よく小学校に呼ばれて戦争の話をしてくださいなんて言われるんだけどね、そのときね、生徒が感想文を書いてね、送ってくれたんだね。私がね、なんの気なしにしゃべったことなんだけどね、それを書いてくれた子がいてね」
と、梅吉さんは話しはじめます。
「学校で机並べてるやつとね、さようなら、って言うときにね、明日もこいつと会えるかなぁって、ふと思ったことがあるんだ。・・・そしたら、そのすぐあとの空襲で、そいつやられちまったんだ」
梅吉さんは、そういった体験を何度もされたそうです。戦争を知らない私たちにとって、その言葉は大変ショックなものです。現代でも、災害などによりそういった状況は起こりうるものの、決定的に違うのは、戦争は人の手により引き起こされるという点にあります。そのことを、梅吉さんは強調されました。
梅吉さんは、ご自身が語れるすべてのことを、惜しまず、飾らず、私たちに強く訴えかけてくださいました。梅吉さんの言葉は、愛情とユーモアにあふれていました。そして、江戸っ子調の粋で洒落た語り口が、私たちの心を終始捕らえて離しませんでした。
この講演会は、「中央区TV広報番組 こんにちは中央区です」で紹介予定です。
ホームページでの映像公開は、8月26日(月)より。
https://www.city.chuo.lg.jp/kusei/kohokotyo/tvkohodoga.html
テレビ放映は、8月25日(日)~8月30日(金)です。
ケーブルテレビ11ch(111ch)
★湊っ子ちゃんのオススメ★
中央エフエム84.0「京橋区宝町 梅吉坊ちゃんの今昔よもやま噺」
江戸学に精通された梅吉坊ちゃんが、独自のユーモアを交えて、中央区の昔の町並みや、人々の様子を語ります。聞き手を務められるJUMIさんの言葉はあたたかく、ふたりの掛け合いは軽快で、聴く人を笑顔にしてくれます。湊っ子は、この番組が大好きです!
中央エフエム番組表
http://fm840.jp/timetable.html
中央区観光協会特派員 湊っ子ちゃん
第57号 令和元年8月21日