至福の海に、浸かってみたい!
この大きな鍋の中、何が入っているか分かりますか?
分かりますよね。和菓子好きのあなたならば。
そうなんです。
赤紫の小豆色。とろりと炊き上がる「こしあん」なのです。
「こしあん」って、作るのにとても手間がかかるんだって。
正月に実家であん餅をつくる知人がいて、「作る人じゃなくて、食べる方が良い。」と言っていました。
小豆の皮を取り除く作業が途方もなく大変で、和菓子屋さんの日々の仕事に頭が下がるのだそうです。
その話しを聞いてから、手が伸びる方向がすこし「こしあん」サイドに寄っていきました。
この魅力的な鍋は、日本橋人形町2丁目、甘酒横丁の入り口にある「人形焼本舗板倉屋」さんの餡なのです。
北海道十勝産の小豆がニコニコと輝いています。
創業は明治40年(1907年)と言いますから、もう100年を越えるお店です。
人形焼の発祥は、ここ人形町。
店舗の奥に、作業場があります。
商品製作と販売が同一の店で行われるスタイルは、人形町の店舗の特徴の一つです。
作業場の壁には、鉄の焼き型がすだれのように掛けられており、驚くほど素敵なオブジェになっています。
「焼き型は、いくつあるのですか。」
「数えたことがないからね。奥にもまだ置いてあるんだよ。」
焼き型はずっしりと重い鉄でできています。戦時中、鉄製品は供出の対象になりました。
先人は工夫を凝らして焼き型を守ったのです。
「それがあるから、今も人形焼が続けられているんだよ。」
三代目が、恵比寿様のような笑顔で話してくださいました。
毎日およそ2000個を手焼きで仕上げる、根気のいる仕事です。
次代を受け継ぐ若い力の存在は、とても頼もしいかぎりです。
本当は私、人形焼は得意ではなかったのです。
初めて食べたのは数十年前のこと。
汽車に揺られて届けてくれた東京土産。
日にちが経っていたこともあり、名物ってこんなものかと残念に思ったものです。
趣味で街歩きを始めたころ、訪れた街の名物を積極的に食べてみることにしました。
店頭で、焼きたての人形焼を口にしたのですが、まあ、熱々で美味しいこと。
こしあんを包む生地のやさしいふっくら感。
食べず嫌いでいたことが悔やまれました。
忙しい師走。
こしあんをタップリ包んだ人形焼でお茶すれば、ほっとする時間が生まれます。
全部食べちゃお。
いっただきまぁす。