佃のお地蔵さま
佃大橋を歩いていると、
佃島の景色のなかに、一点輝くものをみつけました。
建ち並ぶ家々の屋根より、ひとつ背を高くして、
金色に染まった、銀杏の木でした。
あの木は、どこにあるんだろう?
橋を下りると、銀杏の木をめがけて、歩いてみました。
すぐ目の前には公園があって、ここの木たちも秋色に染まっています。
ぐわぁ、ぐわぁ、
という声がきこえてきました。
鳥かな?
公園の落ち葉を踏みしめて、その姿を探して歩くと、
あぁ・・・やっぱり。
そこにはお堀があり、浅瀬にたくさんの水鳥が来ていました。
カルガモにオオバン、シロサギ。
ハクセキレイまで、ちょこちょこと歩き回っています。
ここには、鳥がいっぱい来るんだなぁ・・・。
あ、そうそう。
あの大きな銀杏の木を探すのでした。
慌てて空を見上げると、こっちだよ、と言うように、
銀杏の木は頭を見せていました。
赤い小橋まで来ると、その姿はより近く感じられました。
「佃小橋」です。
漁師町だった佃島。
島の中央には、船を入れるための堀が、隅田川から引かれています。
年季の入った、白い木札が立っています。
このお堀のなかには、大幟の柱が埋まっていて、3年に一度の大祭のときに、掘り起こすのです。
江戸時代からの習わしといいますから、感じ入るものがあります。
民家が所せましと寄り添っていました。
そこに、ほんの肩幅ほどの細い路地が、口を開けています。
そっと足を踏み入れると、ひんやり冷たい空気が頬をなでました。
でも、不思議と寒くはありません。
打ち水したての清潔な匂いと、お線香の匂いが漂ってきます。
足元には、金色の落ち葉が道しるべのように連なっていました。
その落ち葉をたどって・・・。
見上げると、屋根と屋根の隙間から、細く銀杏の木が見えました。
あ、あの木だ。
路地の途中に、その地蔵尊はありました。
「佃天台地蔵尊」。
銀杏の木は、ご神木だったのです。
両手を広げても余りあるほどの、大きな幹。
これほどの大木が、家々に囲まれた小さな空間にそびえていました。
その幹の肌は、ごつごつとしていて、どこかあったかくて・・・。
みつめていると、この木が生きてきた長い年月の息吹が、伝わってきそう。
お地蔵さまは、天然石に御影を刻んだ、珍しいもの。
あふれるばかりの花々が、お供えされていました。
そして、壁のぐるりを囲む、屋号などの入った赤い提灯。
毎日、地元の方々にお手入れされ、大切に守られてきたのです。
どこからか、食器の触れ合う音がします。
隣合い、背中合った民家から、生活の音が聴こえてくるのです。
それも何だか、心地いい。
そっと手を合わせ、地蔵尊をあとにします。
きゅうに風が吹いて、銀杏の木が金色の雨を降らせました。
細い路地の足元は、みるみるうちに、輝くばかりに染まってゆきます・・・。
路地を抜けると、先ほどの鳥の声が、耳に戻ってきました。
なんだか、ほんの少しのあいだ、時が止まっていたような錯覚にとらわれたのです。
この島には、古き佳き江戸時代の匂いが残っている・・・。
歩きはじめると、金色の葉が、いつまでも道をついてきました。
中央区観光協会特派員 湊っ子ちゃん
第72号 令和元年12月17日