佃のお地蔵さま
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佃大橋を歩いていると、
佃島の景色のなかに、一点輝くものをみつけました。
建ち並ぶ家々の屋根より、ひとつ背を高くして、
金色に染まった、銀杏の木でした。
あの木は、どこにあるんだろう?
橋を下りると、銀杏の木をめがけて、歩いてみました。
すぐ目の前には公園があって、ここの木たちも秋色に染まっています。
ぐわぁ、ぐわぁ、
という声がきこえてきました。
鳥かな?
公園の落ち葉を踏みしめて、その姿を探して歩くと、
あぁ・・・やっぱり。
そこにはお堀があり、浅瀬にたくさんの水鳥が来ていました。
カルガモにオオバン、シロサギ。
ハクセキレイまで、ちょこちょこと歩き回っています。
ここには、鳥がいっぱい来るんだなぁ・・・。
あ、そうそう。
あの大きな銀杏の木を探すのでした。
慌てて空を見上げると、こっちだよ、と言うように、
銀杏の木は頭を見せていました。
![佃のお地蔵さま](/img_data/CBLOGIMG999_1_1.png?20191218123943)
赤い小橋まで来ると、その姿はより近く感じられました。
「佃小橋」です。
漁師町だった佃島。
島の中央には、船を入れるための堀が、隅田川から引かれています。
年季の入った、白い木札が立っています。
このお堀のなかには、大幟の柱が埋まっていて、3年に一度の大祭のときに、掘り起こすのです。
江戸時代からの習わしといいますから、感じ入るものがあります。
民家が所せましと寄り添っていました。
そこに、ほんの肩幅ほどの細い路地が、口を開けています。
そっと足を踏み入れると、ひんやり冷たい空気が頬をなでました。
でも、不思議と寒くはありません。
打ち水したての清潔な匂いと、お線香の匂いが漂ってきます。
足元には、金色の落ち葉が道しるべのように連なっていました。
その落ち葉をたどって・・・。
見上げると、屋根と屋根の隙間から、細く銀杏の木が見えました。
あ、あの木だ。
路地の途中に、その地蔵尊はありました。
「佃天台地蔵尊」。
銀杏の木は、ご神木だったのです。
両手を広げても余りあるほどの、大きな幹。
これほどの大木が、家々に囲まれた小さな空間にそびえていました。
その幹の肌は、ごつごつとしていて、どこかあったかくて・・・。
みつめていると、この木が生きてきた長い年月の息吹が、伝わってきそう。
お地蔵さまは、天然石に御影を刻んだ、珍しいもの。
あふれるばかりの花々が、お供えされていました。
そして、壁のぐるりを囲む、屋号などの入った赤い提灯。
毎日、地元の方々にお手入れされ、大切に守られてきたのです。
どこからか、食器の触れ合う音がします。
隣合い、背中合った民家から、生活の音が聴こえてくるのです。
それも何だか、心地いい。
そっと手を合わせ、地蔵尊をあとにします。
きゅうに風が吹いて、銀杏の木が金色の雨を降らせました。
細い路地の足元は、みるみるうちに、輝くばかりに染まってゆきます・・・。
路地を抜けると、先ほどの鳥の声が、耳に戻ってきました。
なんだか、ほんの少しのあいだ、時が止まっていたような錯覚にとらわれたのです。
![佃のお地蔵さま](/img_data/CBLOGIMG999_4_1.png?20191218123943)
この島には、古き佳き江戸時代の匂いが残っている・・・。
歩きはじめると、金色の葉が、いつまでも道をついてきました。
![佃のお地蔵さま](/img_data/CBLOGIMG999_3_1.png?20191218123943)
中央区観光協会特派員 湊っ子ちゃん
第72号 令和元年12月17日