在宅で日本橋の「麒麟」と「キリン」について調べてみた
今年(2020年)のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」において、麒麟は戦のない平和な治世に現れる神聖な動物として扱われています。確かに古の中国で麒麟は瑞兆として姿を現す「瑞獣」とされ、鳳凰、霊亀、応竜とともに「四霊」と総称されているようです。
ちなみに、「麒麟がくる」の主な登場人物のひとり織田信長の花押は麒麟の「麟」をベースにしたもので、平和社会の実現という彼の理念が込められているという説もあります。
麒麟の姿は鹿に似てより大きく、顔は龍に似て、牛の尾と馬の蹄を持ち、毛は黄色、身体に鱗があるとされ、麒麟といえばキリンビールのラベルに描かれたイメージを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
渡辺長男作「麒麟像」
麒麟の像としては、日本橋の欄干の中央に建つ聖堂の彫刻4体が広く知られていると思います。2012(平成24)年1月に公開された東野圭吾原作の映画「麒麟の翼」に登場し、認知度が上がりました。
現在の橋(20代目 - 諸説あるようですが)は1911(明治44)年に完成し、1999(平成11)年には国の重要文化財に指定されています。設計は東京市技師の米元晋一で、装飾顧問は建築家の妻木頼黄、麒麟像の原型制作は彫刻家の渡辺長男でした。なお鋳造は、渡辺長男の義父で彫刻家でもある鋳造師の岡崎雪聲(高村光雲が原型を制作した、上野公園の西郷隆盛像も鋳造)です。
デザインは日本橋オリジナル
麒麟の性格は温厚で、殺生を嫌うとされています。しかし、日本橋の麒麟像の表情は温厚というよりも精悍で、全体に勇ましく力強い印象です。
また、本来麒麟に翼はないことになっていますが、この像には日本の道路基点である日本橋から飛び立つというイメージから翼が付けられました。さらに、麒麟像は左右で表情が違い、狛犬や仁王像のように一方が口を開き、もう一方が閉じた阿吽(あうん)の対となっています。
麒麟像として、日本橋の像はたいへんユニークなものといえそうです。
安藤泉作「キリン像」
日本橋地区にはキリンの像もあります。日本橋三丁目にあるスターツコーポレーション株式会社の本社ビルの入り口に、なぜキリンの銅像が置かれているのか気になったことはありませんか?
1988(昭和63)年11月に現在のビル(当時、中将湯ビルと呼ばれていた)が建てられ、翌1989(昭和64)年4月にこの高さ6メートル25センチのキリン像が設置されたようです。
その由来をネットで調べたところ、以下の記述を見つけました。
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以前、この地には「津村順天堂」という企業の本社があり、キリンは漢方では王様の象徴であると考えられていたこと、その思いを鍛金彫刻家の安藤泉さんが作品として建立されたとのことです。
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キリンの由来
中国では明の時代に、ベンガルの遣使がキリンを麒麟として永楽帝(1360~1424年)に献上したとされています(『明成祖実録』)。また、明の鄭和が南海遠征(分遣隊がアフリカ東岸諸国に到達した第5次航海)の帰国時に、ライオン、ヒョウ、ダチョウ、シマウマ等と一緒にキリンを麒麟として永楽帝に献上したとの話もあります。
ただ、キリンと漢方の関係がよく分からないので、株式会社ツムラ(株式会社津村順天堂の現在の社名)にメールで問い合わせをいたしました。
ご丁寧な回答をいただいたのですが、残念ながらキリンの像となった理由について記録は残っていないそうです。また、キリンに関連する漢方薬、材料等は存在せず、「キリンは漢方では王様の象徴」という意味も不明とのことでした。
一方、このキリン像はビルの吹き抜けの天井を照らす役割を担っており、頭部の王冠は照明器具という記述をネット上で見つけました。キリンの像となった理由は極めて機能的なもので、照明器具を設置する高さを確保するため、背の高い動物キリンがモチーフとして採用されたのでしょうか…。
スターツコーポレーション株式会社にメールで問い合わせをしたところ、残念ながら「かなり前から消灯したままとなっております」とのご回答をいただきました(理由等詳細は不明)。いつか天井を照らす夜のキリン像を見たとき、在るべくしてそこに在るように思えてくるかもしれません。