Hanes

映画ポスターに見たポーランドの面白さ@国立映画アーカイブ


こんにちは。アクティブ特派員のHanes(ハネス)です。
12月13日(金)より、国立映画アーカイブにて展覧会「日本・ポーランド国交樹立100周年記念 ポーランドの映画ポスター」が始まりました。
正直、ポーランドは個人的にまだあまりなじみのない国であり、「ポスターからその国について少しでも知ることができたら...」と展覧会へ行ってきました♪
今回はその展覧会の内容や本企画展担当の主任研究員岡田さんによる解説から見えた国ポーランドの一部を凝縮してお届けします!

満足の作品数と「ポーランド派」

まず今回の展覧会をオススメしたい一つの理由として、作品数の多さが挙げられます。
今回はなんと、前期・後期合わせて1950年代後半から1990年代前半まで96点のポスターが展示されます!
国立映画アーカイブの前身である東京国立近代美術館フィルムセンター時代には、所蔵品のみ約50点のポーランドの映画ポスターを展示したことがありましたが、今回は他の美術館や映画資料館、さらには個人の所蔵品も加わっての展示が実現。
そして、今回は「ポーランドの映画ポスター カタログ」の販売もしています♪

 映画ポスターに見たポーランドの面白さ@国立映画アーカイブ


それらの作品は、「第1章 ポーランド映画のポスター」、「第2章 日本映画のポスター」、「第3章 世界各国の映画のポスター」の3章立てで展示されています。
岡田さん曰く、ポーランドの映画ポスターは、映画の宣伝媒体としてだけではなく、アート作品としてもご覧いただけるとのことです。
特に第3章は、有名な映画も多いので、映画ファンの視点からも楽しめるのだとか!
映画を研究されている方は、映画史の中におけるポスターの変化や重要性を、実際に映画を観たことのある方は、映画そのものとの関係からポスターで表現されていることをじっくり味わうことができます。

 映画ポスターに見たポーランドの面白さ@国立映画アーカイブ


ではここで、簡単にポーランドの歴史を振り返ってみましょう。
第二次世界大戦中、ナチス・ドイツとソ連によって分割されたポーランド。
ソ連の影響もあり、1947年の選挙では共産勢力が大勝し、社会主義国となりました。
しかし、1953年のスターリン死去、1956年のフルシチョフによるスターリン批判により、共産党一党独裁のもとでの言論抑圧が一時的に弱ることに。
これを機に、社会主義リアリズムを脱却し、新世代のアーティストによって映画グラフィックジャズ等に新しい潮流が生じます。

特に、1950年代後半以降の、政府の文化統制から距離を置いたみずみずしい表現が特長の映画ポスターは「ポーランド派」と呼ばれ、その水準の高さで世界を驚かせました。
この「ポーランド派」という言葉自体は、1960年にデザイナーのヤン・レニツァが初めて使用したもので、その後ポーランドには優れた一派がいることを世界中に知らしめることになったのです。

ポーランドの他にこのような優れた映画ポスターを生み出してきた国には、チェコスロヴァキアやキューバが挙げられ、これらの国のポスターにはある共通点があると岡田さんは述べています。
それが、そうした体制下における「制約の中の異常な自由」です。

高校時代、戦後の共産主義国の歩みはあまり好んで勉強した分野ではありませんでしたが、こうして政治的にではなく、別の角度からその時代を見てみることで途端に興味がわいてくるので不思議です!
それでは、実際にポスターを何枚かご紹介したい思います。

現代の実写版ポスターとは違う!味のあるポスターたち

今回展示されているポスターには、共通している興味深い点が3つあります。
1つ目は、現代の映画ポスターとは異なり、あまり主演俳優・女優の顔が含まれていないことです。
映画を観る際に、主演が誰かによって作品を選ぶ方もいる中で、これは驚くべき傾向なのではないでしょうか。
その背景には、社会主義体制下では売るためのデザインを考える必要がなかったことがあります。
その一方、あったりなかったりする主演俳優名の他、監督名、受賞歴は比較的ポスターに見ることができます。
観覧の際は、ぜひそのような文字情報の出し方にもご注目ください♪

2つ目は、主演俳優・女優のものではなく、「顔」が多く描かれていることです。
ここには、社会・政治批判を訴えるようなニュアンスが込められていました。
当時のポーランドの社会背景が反映されており、比較的自由な表現が許されている中でも、厳しい監視下において試行錯誤した結果、隠喩に満ちた自在な表現を実らせた証が読み取れます。

3つ目は、グラフィック大国のポーランドで、映画ポスターは業界内の匿名の仕事ではなく、一流のポスター作家たちによる仕事だったということです。
これも他の多くの国々とは異なる点ではないでしょうか。
デザインのみならず、意表をついた表現も多々あり、初見で目に入り・脳裏に残ったものがすべてではなく、じっくり見るからこそ理解できる味わいもまた魅力的なのです!

例えば、今回の展覧会のチラシにもある『暗殺の森』ポスター。

 映画ポスターに見たポーランドの面白さ@国立映画アーカイブ

『暗殺の森』ポスター:ヤン・ムウォドジェニェツ(1974年)神奈川県立近代美術館所蔵(撮影:市瀬真以)


「順応主義者」という意味の原題を持つ本映画は、ベルナルド・ベルトルッチを世界に知らしめた作品。
ファシスト組織の命令に従い、その崩壊とともに崩れおちてゆく青年が主人公です。
このポスターでは、ボタンを固く閉じた衣服が、青年の秘められた内面を印象的に表現しています。
とりわけ映画鑑賞が趣味というわけではない私ですが、この一見無表情ともいえる男性は内に何を隠しているのだろうと気になり、実際にこの映画を観てみたいと映画の世界に誘われたことは言うまでもありません。

 映画ポスターに見たポーランドの面白さ@国立映画アーカイブ

『姿三四郎』ポスター:イェジ・フリサク(1971年)国立映画アーカイブ所蔵


明治時代を舞台に柔道を極めようとする青年の人間的成長を描いた富田常雄の人気小説が原作の映画『姿三四郎』のポスターです。
これは、黒澤明の初監督作として映画化されたものの再映画化時(内川清一郎監督)のもので、柔道をする人たちが極端に抽象化・シンボル化されているのが特徴です。
『暗殺の森』ポスターともまた異なり、ポスターに込められた意図は分かりづらいかもしれません。
しかし、それがまた「映画を観てみよう」という気にさせるのではないでしょうか。

 映画ポスターに見たポーランドの面白さ@国立映画アーカイブ

『水の中のナイフ』ポスター:ヤン・レニツァ(1962年)川喜多記念映画文化財団所蔵 ©ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2019 G1994


「ポーランド派」の先輩監督たちに続いて、鮮烈な表現で世界を驚かせたロマン・ポランスキ監督の長篇第一作『水の中のナイフ』のポスター。
登場人物3名が湖の魚として描かれています。
私が生まれるはるか前の作品ですが、なぜ登場人物がこのように描写されているのかが気になり、ついあらすじや動画を検索してしまいました。

 映画ポスターに見たポーランドの面白さ@国立映画アーカイブ

『ダントン』ポスター:ヴィエスワフ・ヴァウクスキ(1993年)武蔵野美術大学 美術館・図書館所蔵


フランス革命期の2人の政治家、恐怖政治を敷いたロベスピエールと現実主義的なダントンの対立をテーマにした歴史大作『ダントン』。
人間の顔面を握りつぶしているさまは、ロベスピエールの容赦ない粛清を象徴しているのだとか。
これほどにまでインパクトがあると、ロベスピエールについて明確な人物像がなくてもイメージしやすいですよね。
そして、髪型がフランス革命時の絵画で見るようなもので、当時の特長もしっかりおさえていることに気づきます。

 映画ポスターに見たポーランドの面白さ@国立映画アーカイブ

『醜い奴、汚い奴、悪い奴』ポスター:イェジ・フリサク(1978年)神奈川県立近代美術館所蔵(撮影:セキフォトス 田中俊司)


今回ご紹介するポスターの中で最後に取り上げるのは、見るからにして映画のタイトル『醜い奴、汚い奴、悪い奴』と一致しているような気味の悪い人の顔をした虫が描かれたもの。
ここでもやはり顔を重視した表現となっていることに気づきます。
ローマ郊外のスラム街に住む大家族を中心に物語が進む喜劇のポスターで、その登場人物の特徴を知ると、なぜ虫の片目しか開いていないのか、なぜこのような汚いイメージが全面に出ているのかが分かります。

さいごに

ここまで、岡田さんの解説をもとにポーランド映画ポスターの特徴や見所を簡単にご紹介してきましたが、やはり現在映画ポスターの画一化が進む中、このように独創的で自由で、それでもって奥の深いポスターは非常に目新しく感じました。
展覧会の趣旨にあるように、映画の副産物的なポスターとしてではなく、ポスターそのものをアート作品として十分に楽しむことができました。
これは、自分がイメージするポスターと比べて文字情報が少なかったこと、文字が控えめに配置されていたことによるものなのかもしれません。

そして何より、ポーランドとはどのような国で、戦後どのような発展を遂げてきたのかということがポスターからにじみ出ていたことは特に印象に残っています。
高校で世界史を勉強している頃に、映画ポスターからポーランド史ふれる機会があったら、もっとポーランドに興味を抱いていたかもしれません。
次回のEUフィルムデーズ開催の際には、ポーランド映画を鑑賞してみようと来年の計画が立ちました♪

また、今回は特段ご紹介はしませんでしたが、第2章では、『上意討ち 拝領妻始末』(滝口康彦原作)、「芸術か記録か」の論争を巻き起こした1964年のオリンピック東京大会の公式記録映画『東京オリンピック』、当時の公害問題を反映させたゴジラ・シリーズ第11作『ゴジラ対ヘドラ』、市川崑監督の『ビルマの竪琴』、小林正樹監督の『切腹』等、ポーランドで制作された日本映画のポスターも多く展示されています。
日本映画のポスターにもかかわらず、新鮮味を持って見られるのがまた面白く、今季足を運ぶ価値のある展覧会だと思いました。

来年3月上旬まで開催されているので、お近くにお越しの際は、ポーランドの映画ポスターの面白さにふれてみてはいかがでしょうか?

※今回は、国立映画アーカイブの許可を得たうえで展示室内の撮影をさせていただきました。

展覧会のご案内

展覧会「日本・ポーランド国交樹立100周年記念 ポーランドの映画ポスター(Polish Posters for Films 100th Anniversary of Poland-Japan Diplomatic Relations)」

会場:国立映画アーカイブ展示室(7階)
会期:2019年12月13(金)~ 2020年3月8日(日)
 前期展示:12月13日(金)~1月26日(日)
 後期展示:1月28日(火)~3月8日(日)
 ※会期中に一部展示替えがあります。
開室時間:11時~18時30分(入室は18時まで)、毎月末金曜日は11時~20時(入室は19時30分まで)
休室日:月曜日、12月28日(土)~1月3日(金)
観覧料:一般250円、大学生130円、シニア・高校生以下および18歳未満、障害者(付添者は原則1名まで)、国立映画アーカイブのキャンパスメンバーズは無料
公式ウェブサイトhttps://www.nfaj.go.jp/exhibition/polishposters/