■中央区歴史逍遥<22> 岸田劉生『新古細句銀座通』その6
【写真】明治期の新橋と博品館(京橋図書館蔵)
♣原文紹介『新古細句銀座通』毛断嬢(1)①
*「しんこざいくれんがのみちすじ」昭和2年
原文の縦書きを横書きに、漢数字を洋数字に変えた。
新橋が美しい鉄のらんかんの橋となったことを私はおぼえているような気がする。角には博品館という勧工場(かんこうば)があったが、これはもと博品館とはいわず、俗に新橋の勧工場といっていたが、私が11、2の頃に改築されて博品館になる。これが出来た時はなかなかの評判であった。定まった階段というものがなく、道が坂になっていて、途中2、3段位のゆるい階段が所々にあるきりで、自然と階上に行ってしまうという趣好が歩道にあるスリガラスの光とりとともに評判であって、出品物も中々いいものがあり、何となく高級という感じを私どもが持っていたものである、私は今でも時々勧工場の夢をみるがここの景をみることが多い。ここの階上の窓から新橋の美妓諸姉の夕化粧の艶姿(あですがた)がみえるとて、若いものたちが事に託してかいまみたものだとて今日の古老のうちわけ話である。今日では1階の小デパートになっているが、私は本記事の挿絵をかかんとて鉛筆をここに求めたが、店員君がどこかへ行っていて買わずに出て来てしまった。
足が一歩銀座に入ると実にモダーンである。何かいい材料にと思ってポカンとしている前をつばめの如く、向うから女がかすめて通る、一昔前の女性とは種類が違うかのようにその足が早い。サッサッと歩いて行く。又向うから3人づれ位の美人が来る。実に女が多い。昔は外へ出ても婦人に会うことは稀であったが、この頃は実に婦人が多い。みな別に用事がある風はない、しかし皆サッサッと歩いている。
資料で見る銀座
【写真】明治期の新橋と博品館(いずれも京橋図書館蔵)(@AM)