下町トム

新蕎麦の季節がやってきた! ~長寿庵の歴史を添えて~

「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったもので、9月下旬に差し掛かると一気に空気も入れ替わって、秋の気配が満ち始めます。例え昼間の残暑が気になったとしても、朝夕の風の調べは確実に秋の訪れを感じさせてくれます。

そんな頃になると、蕎麦好きの私は町の蕎麦屋さんの軒先に掲げられる「新そば打ち始めました」という文字に心躍ります。芳醇な香りの蕎麦をすするとき、まるで里山の香りを嗅ぐように気持ちがリフレッシュされます。この時期、蕎麦屋さんを訪ねるのが一層楽しみになります。

中央区には多くの蕎麦屋さんがあり、有名なところだけではなく、町ごとに個性豊かなお店を見つけられます。それぞれに好みの蕎麦屋さんの暖簾をくぐるのが楽しみの一つといえます。

 新蕎麦の季節がやってきた! ~長寿庵の歴史を添えて~

蕎麦屋のブランドとしては「更科」「藪」「砂場」などが有名ですが、「長寿庵」もあちらこちらで見られる親しみ深い屋号です。「長寿庵」の名は、三河出身の惣七という人が元禄時代に江戸・〔京橋五郎兵衛町〕に店を開いたことから始まります。その後、銀座に移転し、さらに暖簾分けが進み、江戸中にその屋号が広まっていったということです。

〔京橋五郎兵衛町〕というのは、後に昭和初期に〔槇町〕の一部となり、現在は〔八重洲二丁目〕の一角にあたります。ちょうど東京駅八重洲口を銀座方面に進み、鍜治橋通りを京橋方面に曲がったあたりのようです。由緒ある「長寿庵」の発祥の地が中央区にあるというのも「食の町」らしい所以です。

是非、皆さんのお気に入りの蕎麦屋さんで、風味豊かな「新蕎麦」をお楽しみください。