新川で100年、四代続く老舗酒屋「今田商店」
「新川」を起点に特派員活動をしている「New River」です。
新川と言えば、やはり「お酒」。第2回目のブログも、第1回目(酒問屋のまち「新川」について ~ 加島屋社長に聞く ~)に続いて、お酒をテーマとし、新川で100年、四代続く老舗酒屋の「株式会社今田商店」さんを取材し、四代目・今田健夫さんとお父様の三代目・今田昇三さんから色々とお話をお伺いしました。
「今田商店」の歴史について
大正12年(1923年)、関東大震災の後、私の祖父・今田金三(いまだきんそう)が現在の地に創業、今年でちょうど100年になります。当時、広島県安芸津町(あきつちょう)で「富久長」(ふくちょう)をつくっていた今田酒造本店の金三の姉が、「誠鏡」(せいきょう)をつくっていた酒蔵(中尾醸造)に嫁いだことをきっかけに、米屋を通して売っていた「富久長」と「誠鏡」を、東京で直接売りたいという想いから、広島からここ新川に出てきたと聞いています。
関東大震災の後なので、一間間口で小さな家を建てて商売を始めたのだと思います。そして、以来、この地でずっと商売をしてきました(昭和25年に法人化)。今のこの建物は平成8年に建て替えました。住まいは店の上で、空いているフロアは貸店舗にしています。(三代目)
三代目の昇三さんと四代目の健夫さん
お酒を販売するということは?(ミッション)
ホームページにも書いていますが、日本酒を通じて、都市と地方と、現代生活と文化歴史と、生産者の情熱と消費者の応援と、そして日常が元気になる楽しさを、つなげていきたいと思っています。伝統に根付いた、酒蔵の強い情熱をお届けすることで、みなさまの日常が、より豊かに広がっていくお手伝いが出来れば、と日々願っています。(四代目)
取扱い銘柄は?
広島の銘柄(現在は約12種類)を中心に色々なお酒を扱っています。今は、問屋さん流通よりも、直接取引で東京で出回っていないお酒が増えています。特に「富久長」はうちの本家(今田酒造本店)がつくっているお酒なので、こだわりがあります。(四代目)
※「New River」注
ちなみに、日本橋川に架かる湊橋を渡ってすぐに右折し、日本橋川沿いに下って行くと、左手に高尾稲荷神社(日本橋箱崎町10-7)がありますが、同神社の手水鉢が何と「富久長」の酒樽になっているのです!そのいわれ(秘話)については、次回のブログでご紹介させていただきたいと思います。
高尾稲荷神社の手水鉢
「今田美穂さん」はどのような方ですか?
今田酒造本店の社長で杜氏も務める今田美穂さんは、「八反草(はったんそう)」(「八反錦」「八反35号」等、広島県を代表する八反系酒米のルーツ)を復活させて「富久長」をつくり、スローガンである「百試千改(ひゃくしせんかい)」(「軟水醸造法」を発明した、安芸津町出身の三浦仙三郎翁の残した言葉。「富久長」は同翁が命名)の情熱を引き継ぎ、挑戦し続けています。
また、美穂さんは、「カンパイ!日本酒に恋した女たち」(2019年に公開された日本酒ドキュメンタリー映画)に出演し、英国BBCが毎年発表する、世界に影響を与えた「100人の女性」に2020年、唯一の日本人として選出されました!
美穂さんは、すごくアグレッシブな方で、海外の輸出も当時やっていないころから積極的にやっていました。最初は学校を出て百貨店に勤めていましたが、その後、実家を継ぎました。昔は女性が酒蔵に入ることが許されていなかったし、ましてや杜氏になるなんて考えられない時代だったので、女性の杜氏の先駆けと言ってよいと思います。(三代目)
今田酒造本店 ホームページ
※「New River」注
三浦仙三郎翁は明治9年(1876年)から酒造りを始め、最初は上手くいかなかったのですが、ある日、伏見の酒造家を地元に招いて講演会を開いたとき、その酒造家から、酒造りで第一に注意しなければならないのが水質で、軟水は一般の飲料水には適しているが、酒造りには向いていないことを初めて聞き、硬水を使って酒造りをしている灘や伏見のお酒を真似る方針を一転、以後、軟水に適する醸造方法の研究に没頭したそうです。(安芸津町観光協会ホームページより)
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お酒、角打ちを通して、この地に住んでいて良かった、住み始めて良かった、勤めて良かった、新川に来て良かった、と思ってもらえるような、人と人のつながりをつくる場所になりたいと思っています。「お酒を通して」というのがうちにできること。蔵元さんの気持ちを伝える。ただ並んでしまうと商品でしかないので、どういう方がつくっているのか、どういう気持ちでつくっているのかを伝えたいと思っています。
角打ちというと、昔は仕事帰りに缶ビールと缶詰めで安く飲めるというイメージでしたが、うちは良いお酒をちゃんと知ってもらうために、美味しいお酒とおつまみを置くようにしています。ですから、角打ちというよりも、“ちょい飲み”できる酒屋といった方が、特に若い人に伝わりやすいかもしれませんね。
また、店の中が結構広いので、普通の酒屋ではできないことにチャレンジしています。具体的にお話すると、店内には固定した商品棚を置かず、移動可能な棚やP箱(プラスチック搬送用箱)を設置し、唎き酒イベントや酒屋寄席等のイベントをやるときは、外に出して会場をつくれるようにしています。
なお、お店は6月中旬に改装の計画があり、1週間ぐらいお休みする予定です。冷蔵庫を購入して30年近く経ったので、新しいものに入れ替えるついでに、他の場所もちょっとずつテコ入れしよう、という感じです。こういう機会でないとなかなかできないので、それが創業100周年記念のイベントでよいかな~、という感じですね。大きなイベントをするよりも、店を新しくすることで、気持ちを新たにリスタートできればと考えています。(四代目)
左右の「富久長」と「誠鏡」の看板は、蔵元さんも見たことがないという古い貴重なものです。真ん中の「今田商店」の看板は祖父の字です。(四代目)
「今田商店」店舗情報
住所・TEL・FAX
〒104-0033 東京都中央区新川1-10-10
TEL:03-3551-5885 FAX:03-3551-5835
アクセス
東京メトロ日比谷線・東西線「茅場町駅」(1番出口)より徒歩3分
東京メトロ日比谷線・JR京葉線「八丁堀駅」(A4出口)より徒歩3分
営業時間
平日:8~21時、土曜:13~19時(定休日:日曜・祝日)
※ 角打ち ⇒ 平日:17~21時、土曜:13~19時
ホームページ
後記
GWに八反草と山田錦の「富久長」を購入し、自宅でいただきました。いずれもふくよかな甘味と酸味のバランスが素晴らしく、火入れをしているのに、フレッシュな発泡感が残っているのには驚きました。
翌日、さらに美味しいお酒を求め、今田商店さんの角打ちを訪れ、初対面のお客さんと意気投合、新川の夜を楽しみました。今田商店さんは、まさに、お酒、角打ちを通して、人と人のつながりをつくる場所でした!また、機会があれば、本家の今田酒造本店さんにも行ってみたいと思いました。