楕円・円筒形の不思議な存在感 日本ペンクラブ
茅場町駅12番出口を出て、平成通りを八丁堀方面に向かい坂本公園・桜通りを過ぎて右に入ると「たん 助六」さんの斜め前に楕円・円筒形の黒光りする不思議な建物が目に入ります。
縦長で細幅の窓がランダムに配置され、1階はピロティになっているようです。
近くに寄って見て見ると、なんと「社団法人 日本ペンクラブ」の表札がありました。
日本ペンクラブといえば、文学に疎い東京ダンボでも耳にしたことのある日本の文筆家で構成される団体です。
日本橋兜町に日本ペンクラブが存在していることは全く知りませんでした。
一般社団法人日本ペンクラブの井出事務局長をお訪ねし、特別にお話を伺わせていただくことができました。
日本ペンクラブの概要
1921年の国際P.E.N(国際ペンクラブ)の創設から遅れること14年、日本ペンクラブは1935年に島崎藤村を会長に約100名の文学者によって創立されました。
そのころの日本は、関東大震災、治安維持法、昭和恐慌、満州事変と、やがて泥沼へと落ち込む崖の淵に立つ時期でした。
その後、暗黒の太平洋戦争の期間を過ぎ、1948年に「文化国家の建設、即ち心にも手にも武器なき国の建設がわが文化人に與えられた任務である」と再建の覚悟を内外に表明し、国際P.E.Nに復帰しました。
初代会長の島崎藤村に続き、正宗白鳥、志賀直哉、川端康成等の教科書に載る有名な作家が会長を勤め、現在は初の女性会長である桐野夏生さんが第18代会長として今年から就任されています。
ペンクラブのP.E.Nは、P : Poet(詩人・俳人・歌人)、Playwrights(劇作家)、E : Editors(編集者)、Essaists(随筆・評論・翻訳・学者)、N : Novelists(作家)。これらを合わせてPENと言い習わしているそうで、文筆を生業としている者が、言論の自由、表現の自由を守るために、そして、世界の平和を希求するために集まり、言語の違いを超えて連帯しよう、という高邁な理想を持った組織です。
建築:北川原温(きたがわら あつし)
この不思議な存在感のある建物の設計は、東京芸術大学で教鞭を取っていた北川原温氏が行ないました。北川原温建築都市研究所のHPには、日本ペンクラブについてこう記されています。
「日本ペンクラブ本部のこの建物は日本ペンクラブが開催した指名コンペで選ばれ、設計しました。都心の角張ったビルが所狭しと立ち並ぶビジネス街の只中にありながら、三辺が道路に、残る一辺が稲荷神社に面した敷地に、建築の自律性を主題として構想されました。中心を少しずつずらしながら連続する変形楕円の平面形状は、1階がピロティ状に解放されながら、筒状に立ち上がり、単純な幾何学形態を避けることで、手作り土器のような素朴さを求めました。曲面を描く外観は瓦タイルで覆われ、独特の燻した銀黒色は「和」の文化を想起させます。柔らかな曲面を持つ形態は、周辺環境にゆとりと潤いを与えています。内部は一転して白漆喰を基調とし、寡黙で安らぎのある空間演出を心掛けました。ただ一点に焦点が集まることのない変形楕円の平面は、ここで繰り広げられる数々の議論が、自由を尊重し固有性と多様性を大切にしていくことを願ってデザインされました。」
まさに多様性、寛容性が求められる現在を先取りするような考えで、日本ペンクラブの理想を表した姿だと思います。
建物は4階建で、3階と4階が円卓の会議室になっています。スリットの窓から光が差し込み、天井にも窓が設けられていて、外観からの想像よりもはるかに明るく感じられました。
会議室の反対側となる東面には半螺旋状の階段がありました。こちらもスリット状の窓から光が入り、独特の雰囲気です。
井出事務局長によると、理事会が行われるほか国際ペンクラブのアジア地区会議も行われたとのことで、今はコロナ禍のためオンライン会議が多いそうですが、オンライン技術が蓄積でき今後様々な発信を行っていきたいそうです。
また、自治体等と何かを一緒に行っていくことを活発化していきたいとのことで、今年は11月3日に和歌山県、和歌山市等と協働で「有吉佐和子の和歌山」を開催します。
例えば中央区では図書館の建て替えが進められているので、完成の暁には新しい図書館で何かをできたらともおっしゃられていました。中央区の図書館関係者の皆さん、ご検討をお願いします。
このインパクトのある建物、テレビの撮影にも使われることも多く、最近では深田恭子主演の「ルパンの娘」で登場する悪者の事務所として使用されたそうです。
中央区との関わり
1935年の設立時は事務所を銀座8丁目に置いたそうです。その後、西銀座5丁目、京橋2丁目、銀座東5丁目等の中央区内や千代田区・港区に事務所を置き、2002年に自社所有ビルを日本橋兜町に建設し、赤坂から移転してきたそうです。
日本橋兜町に選定されたのは、地方在住の会員の方も便利なように東京駅から近いところで探していて、たまたま兜町のこの区画が手に入ったそうです。理事会等の会議の後は近くで一杯飲むのが恒例で、その意味でもとても良い立地だとのことです。
中央区の懐の深さをまた一つ知ることができました。