扇子 伝統の風が吹く
日が長い時期になりました。水辺では、蜻蛉の姿をみかけます。前にしか進まず、退かないという性質から、不退転の精神をあらわす「勝虫」とも言われ、蜻蛉の文様は縁起物として武士に好まれました。
江戸時代になると、縁起の良い文様としてだけではなく、水辺の風情をあらわすものとしても町人の着物や帯の意匠に用いられるようになりました。そのような情趣や文化を意識し、秀逸にデザインされた江戸扇子が、現代でも老舗店で人気を博しています。
思いやりのある道具
扇子は、長い歴史の中で日本の様々な文化と混じり合い、涼をとるためや、儀礼的な小道具としても扱われてきました。
あおぐという役割の他に、和歌を書き、花を載せた贈答や、自らの前に扇子を置くことが作法の一つにあります。座礼の場合は、畳んだ状態の扇子を自分の膝前に置き、相手に礼を行います。この扇子によって、自分が相手より低い位置にいることを示し、尊敬の気持ちを表しています。昨今では、飛沫予防対策として口元を隠す使い方も、平安時代の奥ゆかしい所作に通ずるものがあるのではないでしょうか。
どの使い方にも共通して、相手への思いやりが基本にあります。その意味を知ると、扇子は日本伝統文化を体現し、素敵な交流が図られる道具の一つと見ることができますね。
老舗の役割
日本の文化は、人間より遥かに長生きでこれからも育っていきます。自然に寄り添い、長い年月で継承され、調和を大切に洗練された文化を紡ぎ、発信していくことには大事な意義がありそうです。
長い歴史を持つ老舗には、創業から変わらないそのお店の信条があり、それを支え育てる文化があります。これは、外国の方から見ると、非常に魅力的に映るようです。
「商品の作り方や考え方は変えずに、デザインについては現代の装いに合うように、トレンドを鑑みて提案しています。ファッションの流行、その年の色を取り入れるように意識しています。」と伊場仙十四代目 吉田誠男 取締役社長。
老舗と呼ばれているお店は常に新しい世界に挑戦しながら、一方で日本の情緒がある伝統文化を守ってくれています。
粋なこだわりを現代の装いに取り入れ、日本の良さを再び受け入れられる懐の深さや上品さ、精神的なゆとりを持てるようになりたいですね。
創業400年以上を誇る「伊場仙」
当初は土地の造成などの公共事業からはじまり、地引が確定すると竹材や和紙を幕府に納めるようになります。江戸後期に付加価値を高めようと団扇を手掛けるようになりました。長年にわたりお客様への信用を店の繁栄の礎としてきています。
現在は、団扇と扇子の専門店として店内に数多くの種類が並んでいます。
江戸扇子は、過度な装飾性を排除した粋ですっきりとした印象です。素材は厳選された国産の竹、和紙、繊維を使用し、これらを熟練した職人の手によって製品化しています。非常に手間がかかるので生産量が少なく、当然値も張りますが、価値ある扇子が手に入るでしょう。
「江戸扇子の骨の数が少ないのは、江戸時代の質素倹約を旨とした考えからです。折幅が広いので図柄わかりやすく、シンプルで粋な柄が特徴です。判じ物で縁起の良い柄が好まれ、贈答品として喜ばれています。(吉田社長)」と江戸扇子の魅力を教えていただきました。
日本の伝統文化の良さが凝縮された逸品を暮らしに取り入れてはいかがでしょうか。一味も二味も違った風を感じられそうですね。身近に文化が感じられるお土産としてもお薦めです。
店舗の横には「中央区まちかど展示館」の一環として「伊場仙浮世絵ミュージアム」を開館し、地域や社会に役立つ企業として、古き良きものを伝え、日本橋全体の活性化にも注力されています。ぜひお立ち寄りください。
※不慣れな取材撮影(2022年5月27日)にも、吉田社長、店舗の方々に優しくご対応いただきありがとうございました。
情報まとめ
扇子と団扇の老舗 伊場仙
住所:東京都中央区日本橋小舟町4-1
URL:https://www.ibasen.co.jp/
参考文献:吉田誠男『遠き海原~世界都市「江戸」誕生の物語』
中央区推奨土産品
「江戸扇子 №24 トンボブルー 両面柄」
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(期間限定)
URL:https://ippin-do.chuocity.tokyo/