日本の知恵と技術が詰まった「つづら」の魅力
「岩井つづら屋」
中央区推奨土産品を販売する『東京まんなかIppin堂』では、中央区の魅力や伝統、そして作り手の思いが詰まった逸品がたくさんあります。
その中でずっと気になっていた逸品が「つづら」です。人形町にお店を構える「岩井つづら屋」さんは、今では東京で一軒のみとなったつづらの専門店です。今回、機会を得て「岩井つづら屋」の岩井恵三さんと奥様にお話しを伺いました。
つづらの魅力に迫ってみたいと思います。
「つづら」とは、どんなもの?
つづらと聞くと頭に思い浮かぶのが昔話「舌切り雀」です。雀のお宿に行ったお爺さんが助けた雀から小さなつづらをもらいます。開けるとたくさんの財宝が入っていた。そんな話でした。昔はどの家にもあったつづらですが、最近では見る機会は少なくなりました。
つづらは漢字で「葛籠」と書きます。竹で編んだかご(籠)に和紙を貼り、柿渋と漆を塗って仕上げた蓋付きの箱。主に着物などの衣服を入れるために使われます。
もともと「ツヅラフジ」という植物のつるで編んだ蓋付きのかごを指しました。その後、竹を編んだ駕籠やヒノキの箱に、和紙を貼って柿渋、漆を塗ったものが作られるようになりました。
江戸の元禄時代になると、葛籠屋甚兵衛(つづらやじんべえ)という江戸商人が婚礼道具として売り出したのをきっかけに、つづらは庶民にも広がります。つづらの最盛期は明治から大正時代にかけて、呉服の街として名高い日本橋にはつづら職人がたくさん住み、つづら屋の組合も組織され、つづら店が100軒以上もあったそうです。
東京で唯一のつづら店「岩井つづら屋」の歴史
「岩井つづら屋」さんの創業は江戸末期の文久年間(1861~1864年)に遡ります。初代の岩井信四郎が駕籠(かご)屋を初め、本業の傍ら、つづらの製造を始めたと伝わっています。
江戸時代、人を乗せる駕籠の材料には強くて軽い「竹」が使われていました。高級な木製の駕籠もありましたが、庶民が利用していたのはもっぱら竹製の駕籠でした。
いつしかつづらの製造が本業となり、創業から約150年経った今では、6代目の良一さんと恵三さんご夫婦が先代のお父様から技術と伝統を受け継ぎ、つづら作りを続けています。
写真は昭和初め頃の「岩井つづら屋」さんの様子です。町内の皆さんと一緒に撮った写真です。
つづらの作り方と特徴
耐久年数は100年以上と言われるつづらは、日本の知恵と技術が詰まった道具です。
つづらの作り方
材料は、竹、和紙、ふのり、柿渋(かきしぶ)、漆など。作り方は昔から変わっていません。まず、竹かごは、竹かご職人が作ります。最近は職人さんも少なくなり、特に角のある長方形の籠を作る職人さんは限られ、埼玉県小川町やつくば市の職人さんに竹かごの製造を頼んでいます。
竹かごの形を整えた後、最初は和紙を貼る工程です。内側と外側にでんぷん糊を使って和紙を貼っていきます。和紙を見せていただくと、裏には麻の蚊帳(かや)が貼ってありました。これは蚊帳を貼って和紙を強く破れにくくする工夫なのだそうです。外側の和紙は2枚重ねにして貼り、竹ぐしをあてて、竹の網目を浮きだたせます。
次に柿渋を塗る下地作りの行程。柿渋に松の松煙(しょうえん)やベンガラをまぜたものを使います。この柿渋がつづらの防虫・防カビ効果を発揮します。つづら作りはこの下地の行程がとても重要で、下地の色が漆を塗った後の色に影響します。つづらの色には黒、朱色、溜色(ためいろ)がありますが、色によって松煙やベンガラの割合を変えます。黒では松煙を多く、朱色や溜色ではベンガラを多く配合します。仕上げは漆を塗る工程。カシュー漆(カシューナッツの殻をげんりょとした漆)塗って仕上げます。
次につづらの内側に化粧紙を貼ります。最後に家紋・名前、或いは好みの図柄をいれて完成です。竹かごからつづらの完成までだいたい5日をかけて作ります。
つづらの特徴
軽くて丈夫、通気性に優れ、防虫・防カビ効果もあるのがつづらの優れたところ。梅雨や蒸し暑い夏のある日本の気候風土で、衣服を保管するにはつづらは最適な道具なのです。
また、つづらはきちんと手入れし、修理をすれば一生使うことができます。昨今、SDGs(Sustainable Development Goals)が注目されていますが、つづらはまさにSDGsを体現している製品と言えます。
化粧紙や家紋・絵柄を好みに合わせてカスタマイズ
つづらの内側に貼る化粧紙は、定番の図柄に代えて、自分の好きな図柄の和紙を貼ることができます。近くの大伝馬町にある小津和紙さんで自分好みの和紙を購入してくれば、それをつづらに貼ってくれます。
表には家紋や名前、好きな絵柄を入れることができます。最近は家紋の代わりに好きな絵柄を入れる人も多いそうです。色々な絵柄がありました。お店のパソコンでデザインを決め型紙を作ります。この型紙を使ってつづらに絵柄を入れます。「岩井つづら屋」さんのマスコットの雀の絵柄や張り子犬、猫の絵柄などが人気だそうです。
※2022年7月1日より販売開始の「中央区推奨土産品の詰め合わせ」の「小物入れつづら」には絵柄は入っていません。
「小物入れつづら」
「小物入れつづら」は中央区の推奨土産品で、2021年3月に「モノ部門」第3位に選ばれた人気の逸品です。「小物入れつづら」についてお聞きしました。
「小物入れつづら」をきっかけに、つづらを身近に感じてほしい、若い人や外国の方に気軽に使ってもらいたいとの思いから、2016年に新しく製造・販売を始めました。
「岩井つづら屋」さんで一番小さいつづらで、大きさは20.5×12cm、高さ7.5cmと持ち帰りしやすいコンパクトサイズ。お値段も手頃で、父の日・母の日の贈り物、友人へのプレゼント、お土産などに購入される方が多いそうです。
身の回りの物を1か所に整理しておくのにちょうどよいサイズです。これを贈り物にもらったらうれしいですね。
「小物入れつづら」の色は3色。黒、朱色、そして気になったのが溜色(ためいろ)です。溜色は漆製品に使われる独特の色。あずき色というか、飴色というか、深みのある落ち着いた渋い色です。溜色を選ぶ方も多いそうです。
「岩井つづら屋」さんの逸品「小物入れつづら」お勧めです。