浜ちゃん

「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜④」
~日本橋 拾軒店:瀬川「青楼美人合姿鏡」~

NHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」第10話で、花魁「瀬川」が身請けにより吉原を去りました。その際、蔦重が餞別として瀬川に渡した本が、日本橋とご縁のある「青楼美人合姿鏡」でした。

“べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜” 第10話「『青楼美人』の見る夢は」

39()放映の第10話では、蔦重の幼馴染の花魁「瀬川」(演:小芝風花)が、江戸随一の大富豪で高利貸だった「鳥山検校」(演:市原隼人)に身請けされ、吉原を去っていきました。その際、蔦重が餞別として瀬川に「青楼美人合姿鏡(せいろうびじんあわせすがたかがみ)」(第10話のタイトルですね)を渡し、瀬川の目からひと筋の涙が流れるシーンがありました。

ドラマの中で描かれた、小芝風花さんが演じる瀬川最後の花魁道中のシーンは、とても美しく印象的で、鮮明に記憶に残っている方も多いのではと思います。

タイトル画像は、歌川広重が吉原を描いた「東都名所新吉原五丁町弥生花盛全図」(出典:国立国会図書館)で、絵の左下が「大門(おおもん)」、そこから右上に続く通りがメインストリートとなる「仲の町(なかのちょう)」です。瀬川は、仲の町を歩き、大門をくぐって、吉原を去っていきました。

「青楼美人合姿鏡」

「青楼美人合姿鏡」 「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜④」
~日本橋 拾軒店:瀬川「青楼美人合姿鏡」~

蔦重は、安永5年(1776年)正月、花魁たちを描いた錦絵「青楼美人合姿鏡」を刊行しました。

この豪華な遊女の錦絵(画像集)は、勝川春章(演:前野朋哉)・北尾重政(演:橋本淳)という当時もっとも人気のあった絵師の合筆です。超一流の職人に彫版を依頼し、「美濃紙」という高級な紙を使用した、B5版くらいの3冊組の多色刷絵本(豪華カラー本)で、日本印刷文化史上に残る美麗な傑作の一つと言われています。

「青楼美人合姿鏡」に描かれているのは、吉原の遊女たちの日常です。温かみや重厚感のあるタッチで、部屋持ちの花魁や新造、禿(かむろ、遊女の使う幼女)たちとの団欒風景や、百人一首などで遊んでいる彼女たちの普段の姿が描かれました。

画像は、「青楼美人合姿鏡」の最初に掲載されている「松葉屋」の様子です。一番右に描かれているのが「瀬川」で、手元に本を持っています(蔦重の貸本でしょうか)。遊女にとって、本は教養を身に着けるための手段というだけでなく、数少ない娯楽でもありました。

史実では、瀬川が鳥山検校に身請けされたのは安永4年(1775年)で、「青楼美人合姿鏡」刊行の一年前です。ドラマでは刊行された「青楼美人合姿鏡」を蔦重が瀬川に渡していましたが、実は刊行前に蔦重が吉原を去りゆく瀬川にだけは渡していた、と想像するのも面白いかもしれませんね。

(画像「青楼美人合姿鏡」:出典ColBasehttps://colbase.nich.go.jp/))

十軒店(拾軒店)

十軒店(拾軒店) 「中央区とのご縁:べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜④」
~日本橋 拾軒店:瀬川「青楼美人合姿鏡」~

ドラマでも描かれていましたが、「青楼美人合姿鏡」の合版元(共同出版者)の名前に、「本石町拾軒店 山崎金兵衛・新吉原大門口 蔦屋重三郎」とあります。製作の主体、蔵版者は蔦重であるものの、郭外への流通には書物問屋仲間の手続きを要するため、山崎金兵衛と提携したと言われています。

共版の山崎金兵衛は、錦絵草創期の第一人者・鈴木春信の絵本などを出した、日本橋本石町十軒店(じっけんだな)の版元です。既に福内鬼外(平賀源内)の浄瑠璃を刊行していましたので、蔦重は源内を通じて山崎金兵衛とのご縁があったのかもしれません。

十軒店(拾軒店)は、江戸時代初めに商家が十軒あったことが町名の由来とされています。江戸時代、三月の桃の節句には内裏雛・禿人形・飾道具等を、五月の端午の節句には冑人形・鯉のぼり等を商う人形市が立ち、十二月の歳暮の破魔矢・羽子板等を商う市とあわせて、大変なにぎわいをみせていました。画像は、葛飾北斎が十軒店を描いた「画本東都遊」で、店先に小屋掛けまで設けて繁盛している様子が描かれています。

「十軒店」は、現在の住所では「中央区日本橋室町3丁目2番・4番地域」になりますので、中央通りをはさんで、「コレド室町テラス」とその向かいのエリアにありました。日本橋には、「コレド室町」が複数ありますが、「十軒店跡」の案内板は三越の並びにある「コレド室町テラス」にあります。

(画像:十軒店雛市「画本東都遊」出典国立国会図書館「NDLイメージバンク」(https://ndlsearch.ndl.go.jp/imagebank)

【過去ブログ、参考資料・出典】

●過去ブログ:

① 伝馬町牢屋敷:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5849

②浜離宮恩賜庭園:徳川将軍家の鷹狩場 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5856

③ 長崎屋、石町時の鐘:平賀源内 https://tokuhain.chuo-kanko.or.jp/detail.php?id=5861

 

●参考資料・出典(ホームページ含む):

歩いてわかる中央区ものしり百科、中央区、国立国会図書館、東京都立図書館、国立文化財機構、東京国立博物館、NHK、プレジデント、サライ、ステラNet、東京都公園協会、浜離宮恩賜庭園、東京都、郵政博物館、「十軒店跡」案内板

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