しばしばしばた

”メタボリズム”建築の世界を味わう ― 「中銀カプセルタワービル」見学ツアー

中央区の端っこ、銀座8丁目の「東京高速道路」沿いに、レゴブロックを積み重ねて作ったロケットのような特徴的な外観の建物があるのをご存知でしょうか。
…その名も「中銀カプセルタワービル」です。

今回、この建物を後世に引き継ぐことを目的に活動されている「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」さんが実施されている見学ツアーに参加し、建物の中を見せていただくことができました。

カプセルタワーはどんな建物?

カプセルタワーはどんな建物? ”メタボリズム”建築の世界を味わう ― 「中銀カプセルタワービル」見学ツアー

中銀カプセルタワービルは1972年に竣工した分譲マンションですが、単なるマンションではありません。
 

当時のパンフレットの言葉を借りれば「カプセルマンシオン」というコンセプトで造られており、丸い窓の開いたレゴブロックのような部分1つ1つが住戸(=カプセル)で、2つの茶色い塔(=コア)に木の枝のごとくカプセルがくっついた構造になっています。
 

コアの部分はエレベーターを螺旋階段が取り巻くような造りになっているので、よ~く見ると、カプセルも螺旋階段に合わせて段々に取り付けられていることが分かります。

そしてこの「カプセル」の最大の特徴は、カプセル部分が取り外し可能になっていて、個別に取り替えられるように意識して設計されていることです。カプセルの大きさ(外形)は幅2.67m×奥行4.17m×高さ2.55mで、工場で生産したカプセルを道路上で運搬できるような大きさに収められているそうです。

 
実際は施工の都合で全てのカプセルを取り外さないと交換できない状態になっており、残念ながら取り替えた実績は無いそうですが、この設計は、この建物の設計者・黒川紀章さんをはじめとする日本の建築家グループが1960年代に展開した「メタボリズム」とよばれる建築運動の思想をよく反映しています。
社会の変化に合わせてパーツが取り替えられ、まるで新陳代謝(メタボリズム)を起こすかのように機能を変化させていく…当時、そのような建築のカタチが構想されていたのです。
(ちなみに、以前私が記事にした丹下健三さん設計の「旧・電通本社ビル」の都市の拡大に合わせて延びていくようなデザインも、「メタボリズム」を具現化したひとつの形と言えるのではないかと思います。)

カプセルの中に入ってみよう

カプセルの中に入ってみよう ”メタボリズム”建築の世界を味わう ― 「中銀カプセルタワービル」見学ツアー

見学ツアーでは、保存・再生プロジェクトの方が保有されている住戸の1つの中にも入らせていただきました。
カプセル1つは先述の大きさなので、1戸あたりの面積は10㎡程度と、普通の住宅としてはかなり狭小です。それゆえ、ビジネスマンが平日に暮らす住宅や、企業のオフィス・会議室、顧客の宿泊場所など「ビジネスカプセル」としての利用が想定されており、かつてはベッドメイキングサービスクリーニングサービス秘書サービス(カプセルレディ)など、ホテルに近いようなサービスが提供されていたそうです。

 ”メタボリズム”建築の世界を味わう ― 「中銀カプセルタワービル」見学ツアー

分譲マンションということもあり、カプセルごとに所有者の方が好きに内装をカスタマイズしてお住まいになっているようですが(その様子は書籍などでもご覧になれます)、見学させていただいた住戸は、販売当時に近い状態が保たれています。

壁には収納の他、テレビやラジオ、電話、目覚まし時計、カセットなどの「装置」が組み込まれており、船のコックピットを思わせるようなデザインにワクワクします。

 ”メタボリズム”建築の世界を味わう ― 「中銀カプセルタワービル」見学ツアー

壁の一部を開くとこのように作業机が出てくるようになっており、秘密基地のような楽しさがあります。

工業的に生産する「装置」としての建築が追求された時代背景を感じさせる内装です。

カプセルタワーの今後は…

そんな中銀カプセルタワービルですが、国内外からの取材や見学は絶えず、保存・再生プロジェクトの取り組みもあって新たに入居される方もいらっしゃるそうです。

しかし、メタボリズムの思想をよく反映した建築として国際的にもその価値を認める声がある一方、老朽化などの理由で解体・建て替えをすべきという議論も出ているのが現状です。

今後、この建物がどのような運命を辿るのかは流動的な状況ですが、一個人の意見としては、建築史的価値の高いこの建物がこれからも何らかの形で保存されてほしい…!と願うばかりです。

中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクトでは、見学ツアーのほか、カプセルの一室を一か月から賃貸できる「マンスリーカプセル」、書籍の出版など、様々な形でこの建物の魅力を発信されています。
建物の中を見ることができるのは中々貴重な体験なので、ご興味がありましたら、保存・再生プロジェクトさんのホームページ等をご覧ください!