キタムラリョウ

塀の内側は別世界
歴史が息づく人形町の玄冶店濱田家

人形町交差点から金座通りを明治座方向に3分程歩くと、左手に高い塀に囲まれた数寄屋造りのお屋敷があります。塀の中は異なった時間が流れている別世界のよう。ここが人形町を代表する料亭、玄冶店濱田家です。

 

 塀の内側は別世界
歴史が息づく人形町の玄冶店濱田家

この一帯は徳川三代将軍家光公の病気を全快させた功績で、御典医の岡本玄冶が屋敷を拝領した場所です。そこに家を建てて庶民に貸したことから「玄冶店」呼ばれました。その場所にあるので玄冶店濱田家です。

そして、ここは江戸で最初の歓楽街、旧吉原ができた所。近くには江戸歌舞伎の中村座、市村座がありました。芝居小屋が立ち並び、からくり人形の人形遣いが住んでいたことから、後に人形町の名前がつきました。

昭和の初期までそれは華やかだった芳町の花街、末広亭や喜扇亭などの10軒の寄席、それに40以上のカフェ、それらすべてが徒歩圏内にありました。江戸から綿々と続く歴史がそこかしに息づいている新和泉町(今の人形町3丁目)で生まれた玄冶店濱田家、今年(2022年)で創業110年を迎えました。

※玄冶店石碑と説明板は人形町交差点久松町寄りにあります。

 塀の内側は別世界
歴史が息づく人形町の玄冶店濱田家

塀の内側には金座通りの行き交う車の音も聞こえてきません。まるで、昔の人形町にタイムスリップしたかのよう。

 

 

四季を味わう日本料理

四季を味わう日本料理 塀の内側は別世界
歴史が息づく人形町の玄冶店濱田家

料理について私なんかがコメントするのも憚れます。美味しかったのは料理だけでなく、気配りも。ご飯を「お持ち帰りになりますか」と可愛い箱に持たせてくれました。「お富、与三郎」と名付けられた濱田家と秋田酒造のコラボのお酒もすこぶる上品でした。

季節と共に変化する庭に合わせて絵と生け花を変えています。今日の花は大山れんげと都忘れ。数寄屋造りの数寄とは生け花などの風流を好むことから来ているそうで、そう言われると改めて風情を感じさせます。お一人で訪れて、食事の後に読書を楽しまれる方がいらっしゃるそうです。贅沢な時間の過ごし方ですね。

 塀の内側は別世界
歴史が息づく人形町の玄冶店濱田家

女将が挨拶に来てくださりました。お名前が三田さん。明治座の社長さんも三田さん。でも明治座とのコラボは行っておらず、「商売気がないというか、ひっそりと、目立たずやらせていただいおります」とのこと。そういえば、今年2022年のミシュランガイド東京に☆1つ店として掲載されていますが、お店はそれを口にしません。

お客様の多くが仕事での会食。個人としては婚礼や家庭の祝い事で使われる方も多いそうです。子供を歓迎しない料亭が多い中、濱田屋では子供連れも歓迎。全室個室なのに一人客も歓迎というのですから、「商売気」感じられませんよね。でも、「一度来られた方はまた来てくださる」、「(濱田家での)婚礼の席に招かれた方が、食事に来てくださる」と自信がのぞきます。

濱田家の名前は花街として知られた芳町(よしちょう)、今の人形町2丁目にあった芸者置屋「濱田家」に始まります。濱田家の芸者、貞奴は日舞に秀でて才色兼備、時の総理伊藤博文にひいきにされた日本一の芸者だったと言われます。後に、彼女は日本初の女優、川上貞奴として知られるようになります。置屋としての「濱田家」が明治末に店を閉める際、貞奴から由緒ある「濱田家」の名を譲り受けて、今に至ります。

 

 

 

 塀の内側は別世界
歴史が息づく人形町の玄冶店濱田家

大正12年(1923)には898人の芸者が芳町にいましたが、昭和51年に76人、そして今年、令和4年には4名だけになってしまいました。今、人形町で芸者を呼べるのは濱田家さんだけ。(ちなみにおもてなし料金は三味線と踊りの二人で2時間12万円)。

しがねぇ恋の情けが仇・・・
春日八郎の「死んだはずだよ、お富さん」

しがねぇ恋の情けが仇・・・
春日八郎の「死んだはずだよ、お富さん」 塀の内側は別世界
歴史が息づく人形町の玄冶店濱田家

「お富さん」、「切られ与三」といえばお富と与三郎の情け話を描いた歌舞伎の名作「与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし。」

大店のダメ息子、与三郎が地元の親分のお妾、お富に一目ぼれ。情事が露見してめった切りにされます。お富も海に身を投げますが、ふたりとも命はとりとめました。それから3年、ごろつきになった与三郎が偶然にもお富の妾宅にゆすりに入ったことから、お互いに死んだと思っていた二人が再会。その有名なシーンが「しがねぇ恋の情けが仇・・・」で始まるせりふです。春日八郎の「死んだはずだよ、お富さん」の歌も有名になりました(劇中では玄冶を源氏と書いて源氏店)。お店の「雪の間」あたりにお富さんの住まいがあったと伝えられています。

※写真の浮世絵プリントは人形町交差点横の読売ISビルにあります。

-- -- -- -- -- -- -- -- -- -- --

仲居さんの所作がきれいです。でもよく見ると、膝をついて戸を横に引いて、また膝ついて戸を閉めて、膝ついて料理を出して、下げて、また膝ついて・・・大変そう。

(コロナの影響で営業中止が明けて)「久しぶりに着物を着たら、それだけで疲れました」、「着物での仕事、汗かきます」とお世話をして下さった仲居さん。結構、ハードな仕事だけにスタッフを募集してもなかなか集まらないのが悩みですが、入ってきた人は皆、女性として成長していくそうです。月一回のお茶の稽古には女将を含めて全員参加。そのせいか「所作がきれいになっていきます。」

「風通しの良い職場で皆楽しく働いています。」そういう所から玄冶店濱田屋のおもてなしが始まっているんですね。

極上の食事と上質な「濱田家昼時間」は19,800円から、夜は33,000円から。サービス料、消費税別。完全予約制。日本橋人形町3-13-5 03-3661-5940  www.hamadaya.info/        info@hamadaya.info 

※お店から写真・記事掲載の許可をいただいています。