松屋銀座・100年前のエンタイア絵葉書

<2025/03/25銀座通りの松屋銀座>
みなさま。お元気ですか?
先日、中山美穂さん主演の代表作とされる「Love Letter」のリバイバル上映を観てきました。岩井俊二作品の世界観はとても心地よくて、この作品も観てみたいと思っていたのですが、やっぱり良かった。若かりし頃の亡き美穂さんが、綺麗な映像の中に閉じ込められたこの作品。とても気に入りました。
一通の手紙から始まったこの物語ですが、手紙というものは相手に届くまで時差があったり、ポストに投函する時のワクワク感もあったりして、味があるものです。電子メールやLINEが主流になった昨今、次第に無くなってきている感覚なのかもしれません。
さて、今日ご紹介してみようと思ったのは、”松屋銀座の100年前のエンタイア絵葉書”。今年、松屋銀座の百貨店は、5月1日に100周年を迎えますが、その時に作られた絵葉書です。

当時の松屋銀座の外観は、このような形だったんですね。
明治・大正・昭和初期の頃に作られた絵葉書は、その頃の街並みや社会風俗を今に伝える史料となっています。一般的に、残っている絵葉書は実際に使われていない形のものがほとんどですが、それに混ざって、「エンタイア」と呼ばれる「使用済みの絵葉書」を目にすることがあります。
この松屋銀座開店時の絵葉書は、数年前、「京橋物語」というブログ記事を書いた時に入手したものなのですが、実はこちらはエンタイア。開店から3か月後、東京にいる女性から、北海道の親類と思われる女性に宛てられたものです。

エンタイアの中でも、希少な切手が貼られていたり、有名人が書いたものは値打ちがあるようなのですが、これはそうでも無さそう。でも、文章を読んでみると、「手紙を送ってくれてありがとう」という気持ちが素直に伝わってくる内容で、今年は寒くて気味が悪い、といった100年前の東京の初夏の近況も交えてられています。
入手した時の話なのですが、大正14(1925)年の松屋銀座の開店時の絵葉書は、同じようなものがたくさんありました。でもこれは、エンタイアであるものの、文章は悪くない。これにしてしまおうかな、と思った時、
私は他にも見つけてしまったのです。

松屋銀座の百貨店は開店後、とても人気となりました。特に、吹抜けのある豪華な内装が特徴で、当時の人たちの話題をさらいました。この絵葉書は、先ほどの絵葉書とペアで同じ時に作られたものでした。
何を見つけたのかというと、この裏側の宛名面に、

なんと、同じ宛名と差出人が書かれていました。
文面を見る限り、先ほどのハガキの文章の続きのようで、消印の日付を見ると、どうやらハガキ2枚で1つの手紙になっているっぽい。。。
私が今回、1枚だけ手に入れてしまうと、永遠にこの2枚は離れ離れになってしまうのだろうと思いました。別々に売られていましたので。
なので、気づいてしまった以上、両方とも手に入れなければならないという、責任感みたいなものをその時感じてしまいます。でも簡単ではありません。オークションなので。落札するまでの時差があって、とてもヒヤヒヤでした。
これらは、そんな思い入れが生まれてしまった2枚です。

2枚目には、絵柄は銀座に新しくできた松屋の百貨店であることの説明がされています。差出人の南千住の女性は、おそらく実際に松屋に行ってこの絵葉書を手に入れたのでしょう。
どうしてハガキ2枚を同時に使って一通の手紙として書いたのか?
ありがとうの大きさを伝えたかった差出人の知恵なのか?
書いていたら長くなってしまったので2枚目も使うことを思いついたのか?
松屋があまりにも素敵すぎてその感動を2枚使って表現したかったのか?
その理由や背景は分かりません。
1925年の松屋銀座開店当時の銀座は、1923(大正12)年9月の関東大震災からまだ1年半しか経っていない時でした。

〈震災当時の写真絵葉書・銀座4丁目交差点辺りから・右上の鉄骨が松屋〉
震災の時の松屋はちょうど工事中で、鉄骨の状態の時に被災しています。周りは焼け野原でした。
松屋開店の半年前に開店した銀座松坂屋もそうですが、震災からの短期間で、よく開店までこぎつけたなと思います。
先ほどの北海道宛のエンタイアが書かれた時は、そういった時代の背景があります。

〈京橋側からの銀座通り・左上の鉄骨が松屋の建物〉
松屋銀座の開店は、震災から間もない頃の不安が多い中で起きた出来事で、当時の人たちの明るい希望だったのだろうと思います。文面には記載はされていませんが、そういう気持ちを2枚の絵葉書で伝えたかったのかもしれません。

〈松屋銀座(×印)ができた頃の銀座・左側の交差点が銀座四丁目交差点〉
尚、このペア絵葉書は、離れ離れにならないように京橋物語の記事に両方載せました。絵葉書の画像をクリックすると、ペアのもう1枚の画像が出るようにしてあります。
京橋物語1 →こちら
そして今回、この記事に文面を載せたことで、文面も、このブログが無くならない限りはずっと一緒です。
このエンタイアの差出人は、まさか他人に読まれるとは思っていなかったでしょう。ですが「目に見える形」で残されたものは、思わぬ形で他者に伝わることがあります。時には残した人の意に反して。時には時代を越えて。
冒頭に書いた「Love Letter」の映画でも、それがとても綺麗に描かれておりました。
「目に見える形」のものは、いろいろあります。流行歌の歌詞であったり、映画の映像であったり。こうしたブログ記事ももしかしたら、そういうこともあるのかもしれません。